trip of memory

□01 目覚め
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「目覚め」














俺が意識を取り戻したとき、自分がいた場所はさっきいた謎の空間とは全く違うところだった。
緑色をした木々に囲まれた湖のそばに俺はいた。湖の周りには木々が生い茂っている。周りに人はいない。
まぁなんとも不可思議な状況の中に俺はいたわけだ。


「…どこだここ」
体を起こして、辺りを見回してみる。しかし全くわからない。なにか手掛かりでも、と記憶を辿ってみる。
しかし、何もわからない。


当然だ。記憶がないんだから。


「はぁ…」
とりあえず溜め息をついてその場に寝そべる。頭を抱えながら、ない記憶を無理やりこじ開けようとする。深く考えれば、もしかしたら思い出すかもしれない、と思ったからだ。
自分の名前。
出身地。
年齢。
家族。
友達。

…etc。


しかし、何一つ浮かばない。
結局栓の無いことだと諦め、空を見上げた。
今自分がいるところは空が見える。湖があるおかげで、その上方には遮るものが何もないからだ。その周囲は木が密になっているので薄暗くなっているが、陽の光が差すこの場所は明るい。
流れる雲を見ながら、段々と眠気が俺を襲ってきた。


…我ながらのほほんとしてるなぁ。記憶がなくなる前もこんなだったのか?


…とノンビリ考えていたときだった。


――ビュン!!


「うわっ!!」
ズドッ。


急に矢が飛んできた。咄嗟によけたから助かった――訳ではなかった。矢はもといた場所から目測3m離れた場所に刺さっていた。何だろう…と考えていたとき、声が聞こえてきた。


「…人間!?」


…なんか複雑な気分だ。俺は人間じゃないように見られたのかよ。
ブツブツ呟きながらも相手の方を見てみる。
15mぐらい先のところに人が立っていた。
(一応)狙われた俺は、警戒しつつ相手を観察する。


身長は…俺よりやや低いだろう、多分165cm前後。がっちりした体格とは程遠い、細身の体。でも細い割に腕や足の筋肉は結構あるようだ。茶色い髪に青い目をしている。手には弓を握っていた。見た感じ、たぶん男。先程狙ったのはコイツだと確信した俺はジリジリと後ずさりする。
それに気付いたのか、相手は持っていた弓をポイッと投げた。


「悪い!!人がいるとは思わなかったんだ」


男が喋った。俺の警戒心を解くため、手も上にあげる。
俺を狙ったことも謝ったし、丸腰になるくらいまでだから、と判断し、俺は警戒心を解いた。

それを感じとったのか、相手は笑みをこぼした。
「いや、ごめんね。弓の練習をしていたときに何かの気配を感じたからさ」
男が頭をかきながら俺に話しかけてくる。そのままもう一度ごめん、と言って頭を下げた。


「まぁ、突然のことだったならしょうがないし…結果的に無事だったからいいよ」
俺がそういうと、男は顔を上げた。そして、フゥーっと息をはいた。向こうも相当申し訳なく思っていたようだ。様子からすると、俺を狙ったのも故意ではなかったようだし、何度も謝ってくるところを見ると、悪いやつではなさそうだ。


「でも、なんでここにいるんだ?」
「…」
言葉に詰まった。記憶がない、なんて言って信じてもらえるのかわからない。でも、適当にごまかすべきなのか?


ほんの少しだけ考え、俺は話した。
「…記憶がないんだ。自分の名前も、生まれた場所も、なんでここにいるのかも、何もわからない」


少しの間、沈黙が流れた。








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