trip of memory
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「今日は何にしとくか…昨日は野菜だけだったもんなぁ」
「タンパク質もとらないとねぇ」
「そうだな…でも肉も魚もないし」
「魚ならとってきたよ」
「あ、ほんとに?ありがとう――ってΣうわぁぁぁっっ!!?」
振り返ってみると、そこには数匹の魚が入っているバケツを片手に持ちながら、今すぐ「ヤッホー☆」とでも言いそうなほどの満面の笑みを浮かべたウィルが立っていた。
「しーっ、カフーが起きちゃうでしょ」
あっ、と今更ながらに自分の口を塞ぐ。当のカフーはムニャムニャ言いながら寝返りを打っている。まだ夢の中のようだ。
俺が落ち着いたのを確認してから、話の続きを始める。
「…で今晩は魚料理?」
「ああ、そうする…じゃなくて!!いつの間に帰ってきたの!?」
「いつの間にって、ここは私の家だから問題ないでしょ?…それとも何か隠しているのかい?」
ずい、とウィルは俺に不適な笑みを浮かべた顔を近づけてくる。
「い、いや?別に」
「動揺してるのバレバレだよ。目を泳がせながら言うな」
と、目を細めながらピシャリと言い放つ。ついで俺にデコピンをかました。
ズビシッ!
「Σ痛ぁぁぁぁっ!!ちょっ、どんなデコピンだよこれ!?」
「普通だよ。まあ、前に熊を気絶させたことはあるけどね(指ちょいちょい)」
よく痛いだけで済んだな俺…!!
「勝手に出かけたことは別に咎めないよ。今のでチャラにしとく」
相も変わらず笑みを浮かべたまま言うウィル。
はは…こいつにはかなわないな…。
俺も苦笑しつつ、ウィルが持つバケツを取った。
魚…どうしようかな?
あまり大きくはないが、揚げるのにはちょいと大きい。
…うん、焼くだけでいいか。
そう思案し、調理に取りかかった。 魚はいいとして、後は…。
テキパキと作業をする俺を見て、ウィルが声を掛けた。
「ケイはホントにこういうの慣れてるよね」
「んー?まあ、そうなのかな?なんでかはわからないけど、体が勝手に動くんだよな」
包丁で人参を切りながら答える。
「…体は覚えてるってことかな」
「そういうことってあるの?」
「ああ。ケイが無くしてるのは自分のこととか故郷の場所とか、『知識』のようなものだろ?でも、繰り返してきた動作とか思いとか、そういうものは自身――『体』に刻まれるんだ。体で覚えたことは絶対に忘れないんだよ」
へぇ、と溜め息をつく俺。そっか…俺だって全てを無くしたワケじゃないんだ。そう思うと心なしか気持ちが軽くなった。
「体の…記憶か」
「そう。――記憶がなくなる前から頻繁に家事をやることが多かったのかもね」
ウィルが俺に語りかける口調で言った。
「大丈夫さ。きっかけがあればすぐに…どうしたの?」
「いや、なんでもない」
若干動作の遅くなったのに疑問を抱き、質問するウィルに何でもないと答える。
元からこんなこき使われる生活をしてたのかもなんて、言えないよな…。
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