刃の下に心在り

□或る晴れた日の白昼夢
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そこは、真っ暗だった。


「ジュンコ、ジュンコ、」


いない。誰も。彼も。何も。


「(なんで、だって、此処、は)」


何処、だ?学園ではない。裏山でもない。こんなところ、知らない。


「ここ、は…」


動物もいない。虫もいない。人も、いない。誰も、誰も、みんな。


「何処、」


何も、見えない。当たり前だ。光もない、こんな場所では自らの掌さえ、見えないのだから。


「僕、は」


ひとりぼっちだ。


「(駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目、)」


振り払おうとしても、消えない。一度思ってしまえば、まるで憑かれた様にそればかり繰り返す。


「こっちだ」


声が、した。芯の通った、暖かな、声。


「大丈夫だ、孫兵」


耳に、身体に。凛と、響いて。


「私は、此処にいる」


光が、見えた。


「さ、」

「気付いたか!」

「え、」


近い。とても近いところに、人の顔があった。その顔をまじまじと眺め、まだぼんやりとする頭に喝をいれる。


「いくら呼んでも起きないからな、流石の私も焦ったぞ」


にこり。花の咲く様な笑みだ。いや、そうではなくて。


「なんで、」

「ん?」

「左門が、此処に」

「今日は天気が良いからな、一緒に遊ぼうと誘いに来たのだ」


少しずつ頭の靄が晴れてきて、意識がはっきりしてくる。そうだ、此処は僕の部屋だ。


「それで作兵衛に此処まで連れて来てもらって中を覗いたら」


耳が成る鳴る為る。ああ、どうしたことだ。先程まで僕は暗闇に、いや部屋に、その前、は。ぱちり。


「孫兵?」

「う、わっ」

「どうしたんだ?こんなところで」


ぱちり。二度、瞬きをした。僕は灰色の木陰の中にいて、そこは少しだけひんやりとしていた。声の主は、眩い光を背にそこにいた。


「大丈夫か?」

「う、ん」

「そうか」


指先が、悴んだ様に動かない。背骨に氷柱を突き立てられたら、きっと。


「私はここにいるぞ!」

「え」

「何やら孫兵が寒そうだからな!」


そう言って隣に腰掛け、僕の手をぎゅっと握った。


「だからな、孫兵」

「……………」

「大丈夫だ」


此処は暖かだ。



























或る晴れた日の白昼







(あれは、果たして)

(何であったのか)

(夢だったのか、すら)

(僕には、)


























それは真昼の月を見た様だった。






End.


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