刃の下に心在り
□嘘吐きは××
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「……ん…」
「……やっと、起きた」
起きぬけに、冷ややかな目線。ぼんやりとした頭も、一発で覚める様な。
「足滑らせて落ちるとか、馬鹿?」
ぐっ、と言葉に詰まる。あちこちに擦り傷やら切り傷やら作ってしまって。
「本当好い迷惑」
自分でも悪いと思っている。気まずくて眼を逸らす。
「はぁ……」
そうして一際大きな溜息を吐くと、部屋を出て行った。
「うわー…怒ってる…」
「あのね、三郎次」
「うおっ!」
「大丈夫か三郎次」
「お前らどっから湧いてきたッ?!」
完全に気を抜いていた為、本気で驚いた。口から出そうだった。心臓的な物が。
「ふふふふふふ」
「なっ…何だよ四郎兵衛」
まだばくばくいってる。心臓の辺りを押さえる。
「左近の眼、ね」
「真っ赤だろ?」
「ずっと泣いてたんだから」
聞いてもいないのに語り出す奴ら。それはそれは、楽しそうに。
「三郎次が死んじゃったらどうしよう、ってな」
「大変だったんだよ」
「左近ってば付きっ切りでさ」
「授業も出てないんだよ?」
「さすがにそろそろ倒れんじゃねぇかと思って、様子見に来たらこれだろ?」
何だ何だ何だ何だ何だ何なんだ。顔が熱い。恥ずかしい。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。非常に恥ずかしい。
「喧嘩する程…とかってよく言うけどさ、素直じゃないんだよね左近」
「意地っ張りも良いが、今回はお前が折れるべきだな三郎次」
にやにやと笑う奴ら。畜生。
「あ、これ内緒ね」
「そうそう。俺らが言ったなんてばれたら左近に殺される」
「後で『ありがとう』くらい言っといた方が良いよ」
「じゃあな」
「左近によろしくね」
言うだけ言って去る。何て好い迷惑だ。
「おいっ!怪我人は大人しく寝てろ馬鹿郎次!僕の仕事増やすなよっ!」
「……ごめん」
「へ?……あ…いや、まあ、分かってる、なら…良いけど…」
喧嘩腰で返ってくると思われた返事が、予想外に素直に返ったもので拍子抜けしたのだろう。じっ、と顔を見詰める。ああ、本当だ。彼奴らの言った通りだった。
「眼、赤いな」
「え、あっ…」
咄嗟に眼を隠そうとしたその手を取る。真っ直ぐに眼を合わせて。
「ねぇ、」
「…な、何だよ」
「泣いた?」
「っ…これはっ!目に薬が入っただけで…っ」
「へえ」
必死な言い訳に、ついつい口許が緩む。かあっ、と真っ赤に染まった顔が、可愛いと。思ってしまった俺は終わってる。ぐっ、と手首を引いて引き寄せる。平手打ちは甘んじて受けよう。
「俺、愛されてるわ」
「こ、の…っ自惚れんな馬鹿っ!」
それは無理って話です。
嘘吐きは××の始まり
(「左近、ありがとう」)
(「なっ…なんだよいきなり!」)
(「心配してくれて」)
(「なっ!だっ、れがっ…!べ、別に…っちが…!」)
(「ありがとう」)
(「〜〜〜っ!!」)
心配したんだから、なんて死んでも言うもんかっ!
End.