刃の下に心在り

□なかったことにしてしまいたい
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苦しかった。もう、ずっと。


「作兵衛、大丈夫か?」

「…ああ、大丈夫だ」


嘘だ。苦しい。本当は。とても。


「けど、」

「大丈夫だから、気にすんな」


繋いだ手に、力を込めた。大丈夫だと、言う様に。離れて、仕舞わない様に。そうやって。この手を繋ぐ口実を、自分に強く、強く言い聞かせて。


「作兵衛?」


本当は、もう手を離して仕舞いたい。離して、一人で、走って、叫んで。本当は。


「何でも、ない」


ずっとこのままでいたくて。


「なら、良いけど」


後ろなんて振り向けない。手を繋いでいるのだって、本当は辛くて。怖くて。


「左門早く見付かると良いんだけどな」


この想いが、伝わって仕舞いそうで。


「……ああ」


眼が合うだけで、だめで。真面に見れなくなった。嫌だった。とても。自分が、知らないものになっていく様で。自分が、作り替えられた、様で。お前に。お前が。俺は。こんな、こんな。


「………三之助、」


こんな、想い等。


「ん?」


すきだ。


「……いや、何でもねぇ。忘れた」

「そっか。思い出したら言ってくれ」

「…ああ、そうだな」


きっと、一生忘れたまま。






























なかったことにしてしまいたい





(出逢った事も)

(惹かれた事も)

(何もかも、)

(総て、総て、総て、)

(なかったことに、出来たなら)



























これ程焦がれる想い等、俺は知らずに済んだのに。






End.


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