愛しく賑やかな日々〜英凛学院物語 三部〜

□愛しく賑やかな日々〜英凛学院物語 三部〜
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「なぁ、秀、一緒に暮らさないか?」
再会して何度も外でであった。
ある日、いきなり祥はそう秀に言う。
「えっ。」
食事の手が止まる。
「お前一人くらい、養う甲斐性はある。」
真剣な目。この事を切り出すまでかなり迷った事だろう。
「とてもうれしいのですが、お断りします。私は今の生活を手放したくありません。」
悠夜の側を離れたくないのだ。
「だが、このままでいいのか?誰かに強いられたレールを進んでも?」
「今は私の進みたいと思う道です。私がいま進みたい道なんです。」
「だが・・・それは・・・・。」
「最初は私が望んだことではなかったけれど。・・・あの方は、悠夜様の側に居ることは私の幸せなんです。」
「館木 悠夜か。館木の息子であり、三谷の跡継ぎか。」
さすがにkannzeの秘書室に在籍するだけである。
情報は十分だろう。
kannzeの秘書室といえばわからない事はないとまで言われる場所。
それだけの情報網と蓄積能力がある。
知ろうと思えば、本人すらしらない身体的特徴すら知り得るとまで言われる。
また特にネットでの情報力は群を抜いている。
それは崇瀬が総帥に主任する以前から同じであったが、彼の就任後はその事に拍車がかか
ったように増強した。
情報操作なども行っているらしい。そうそれが事実であるかどうかの確認すらできないのだ。
もちろんそれはネット以外にも及ぶのだが。
「そうです。私にとって最愛の方はあの方ですから。私を必要として下さった最初の方です。」
「・・・・何故そこまで信じられる?」
自然な疑問を口にした。
「さぁ。悠夜様が笑ってくださるからでしょうか?。」
そう秀はいった。

一人息子の悠夜が家族のだれもが望まぬのに三谷の後継者となったために、送り込まれた子供。
煩わしいと思われたも仕方のない立場。
なのに、館木の人々は、悠夜は秀を大切にしてくれた。
家族として、あたたかく迎え入れてくれた。
それだけで、家庭の温かさをしらずにそだった秀は癒され、満たされていったのだ。
とくに悠夜は、無条件で信頼をよせた。
はじめて、秀は愛されたいと望む事より愛したいと望んだのだ。


「笑ってくれる・・・か。」
その意味をもっとも理解できるのは祥だろう。
ずっと、両親に疎まれ続けた少年を見続けていた彼にとって。
だからこれ以上はなにも言えなくなる。
「ただ、いま悠夜様と暮らす家を探してるんです。探すの手伝ってもらえますか?」
そう秀はいった。
やっぱり兄の事が好きだった。
一緒に暮らすことはできないけれど、さしのべられた手を取る勇気を今の秀は持っていた。
だから、そういったのだ。
「ああ。三谷の後継者が住む家となればそれなりの家がいいよな。kannze(うち)が抱えてる物
件に良いのがあるだろうから。」
その言葉に祥は安心したように笑う。秀が自分を拒否したのではないと。
「よろしくお願いします。」
丁寧に頭を下げる。
「なぁ・・・秀」
「なんですか?」
「その言葉使いなんとかならないか?お前は俺の弟だろ。その言葉使いはないだろ」
「えっ。イヤですか?」
全く気付かなかった指摘。
「あ、いや。いいんだ。ちょっと気になったからさ。」
「すいません。いつの間にか・・・・。」
少しこまったようにほほえむ。小さく首をかしげて。
「だから、いいんだよ。」
幼かった秀と同じ小さな共通点。
こまった時のちいさなちいさな仕草。
祥にはそれがとてもうれしかった。
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