図書館保管庫

□漆黒のぬくもり
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オレは今日、森と帰ってる。
部活の日は日沈が早く、暗くて危ないからだ。
実際、もう空は真っ暗で街灯と月の光が当たっていない部分はほとんど見えない。

「ねぇ、さっきから私の話聞いてた?」

「わり、ぼーっとしてた」

あんたの頭はいつになったら起きるの?…って、いつも寝てる訳じゃないぞ。
小ばかにした彼女にわざと不機嫌そうな顔で答えてやった。

「そう言うけどこれで何回目よ」

ごめんなさい、おっしゃる通りでした森あい様。
ふざけてそう言ったら無茶苦茶笑われた。
森あい様って所にツボったらしい。

「でね、さっき話してた事なんだけど…」

どうやら週末に鈴子達と会う予定を立ててたらしい。

さっきからオレはこの空の暗さに惑わされてると思う。
森の細い手がさっきから目に入ってしょうがない。
暗いからきっと周りからは見えないだろう、でも問題がある。

森に嫌われないか。
例え受け入れてくれたとしても、それ以前に声が出ない。
一言、手握っていいかという言葉が喉につまったかの様に出てこない。

森の話してる事はちゃんと聞いてる、オレも頷いたりこっちから話題振ってる。
でも頭の中ではずっとそればかり。森の話してる事を覚えててもオレが話した事は覚えてないかもな。

手を森の方に伸ばそうとした、けど無理だった。
触れるギリギリの所でオレの手も指も固まってしまうから。

森はカンが鋭い方のはずなのにこういう事には全く気付かない。
いつものカンを今働かせてくれたらいいのに。

「植木、さっきから私の手ばっか見てるけど、どうしたの?」

どうかしたのかって…言える訳無いだろ。
普段から迷惑かけてばっかなのにこれ以上迷惑かけてどうする。

「…何でもねーよ」

「ふーん。ならいいけど、辛い事でもあるんなら言いなさいよ?」

大丈夫だ、ホントになんでもねーから。
森には気付かれたくない、本音なんか押し込んでしまいたくてそう言った。

「じゃあさ、何でそんな辛そうな顔してるの?」

はじめに思った事は、空が暗いのによくそこまで表情が分かったなという事。
でも心配してる森に嘘なんてつけない、でも自分のわがままを押し付けたくもない。
オレは黙るしかなかった。
何も言えなかった。

「…もしかして、帰ってからずっと上の空だった事と、何回も私の手を見てた事と関係ある?」

「…」

「じゃあ、それは私に言えない事?」

「…違う」

「だったら何か言いなさいよ」

「…て。手、握っててほしい」

言ってしまった。もう後戻りは出来ない。
出来る事なら言いたくなかったし、そんな事言うのオレじゃないとか言って先に帰ってほしかった。
そうされるオレも無茶苦茶辛いんだろうけど。

でも森の反応は意外なものだった。

「え、そんな事?」

そんな事って…すっげー悩んでたオレは何なんだよ。

「だって、オレら付き合ってもないし、森が嫌がるて思ってたから…」

「いいよ」

すっと差し出された手。
森ってこんな素直な奴だっけ…とか言ったら怒られそうだな。

「森はオレじゃなくてもこうやって手を出すのか?」

あまりにあっさりだったから。
もしかして誰にでもこうするんじゃないかと思った。

「そんな事ないわよ。あんただったら別にいいかなって」

「そっか」

今日はもうこの辺りで止めとこう。
これ以上言うと告白しかねない。
それ以上はまだ話したくないからさっと森の手を握った。




END
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