黒月館殺人事件

□序章
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 ふと、僕は空を仰いだ。空はこれから起こることを予期しているのか、どんよりと重い灰色の空だった。
 そして、空から少し視線を下にやれば、そこには丘の上に異様な雰囲気を纏って聳え立つ館がある。
 僕は今からあの館に行かなければならない。
 なぜなら、とある人物に一緒に来るように頼まれてしまったからだった………。





「……冬夜、お願い!あたしと一緒に来て!!」
 学校の教室で僕こと、桐生冬夜(きりゅうとうや)に向かっていきなりそんなことを言い出したのは僕の彼女である来沢雅(くるさわみやび)であった。
 僕はいつものように何かを運ぶのを手伝って欲しいのかと思っていたが、詳しく話を聞くとどうやら違うようだった。
 雅は月ノ瀬瑠依(つきのせるい)という友達に、夏休み中に家―――月ノ瀬さんは一人暮らしをしているので、この場合の家は実家のこと―――に遊びに来ないかと誘われたらしい。
 なんでも、夏休みに月ノ瀬さんの親戚が家に集まることになっているらしいのだが、月ノ瀬さんは親戚達が苦手だとか。
 そこで雅を家に招待したらしいが、雅の方は自分一人だけ他人なので家に泊まるのは気が引けるらしいとのこと。だから、彼氏である僕にも一緒に来てもらいたかったというわけ。
「まぁ、僕は別に構わないけど………ちなみに、どこまで行くの?」
 そう質問すると、雅は腕を組んで考える素振りをする。
 そして、しばらくして思い出す。
「確かね、黒月島って言ってた気がする」
「………は?」
「だから、瑠依の実家は黒月島っていう所にあるのっ!!」
 雅曰く、「その島一つを占領している館が瑠依の家」なんだそうだ。
 島一つを占領した館、ねぇ………。羨ましいことこの上ない。
 僕が館について呆れながらも羨ましがっていると、雅は僕の目を見てにっこりと笑いかけた。
「まっ、そういうわけで詳しいことは行く日が近くなった時にメールするからー!」
 僕に頼み事をしてきた時とは打って変わって、いつもの雅らしい明るい声でそう言われた。
 それが学校が休みに入るほんの少し前の出来事である。
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