Short Story

□ロストワールド
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霧雨が降る坂道を
傘もささずに 駆け上がる
残された時間の中で、
あたしに何が出来るだろうか

朝 この道を走った時を
泣きたいくらいに愛しく思った


あたしがここを通ることは
もう ないのだから




「神様 あたしをつかって下さい」

死にたくないとか、何であたしとか
自分のことを 思うより先に
あなたの“明日”が守りたかった


悔しい思いを、今までの努力を、
無かったことには あたしがさせない






グラウンドには ぽつりぽつりと
雨と 人影

神様がくれた 最後の時間に
あたしは あなたに
会うことを 選んだ



「タイムリミットは10分も無い。
そなたの姿は やがて薄れる
薄れて消えれば 何も残らない

 明日の記憶に そなたはいない」




足元を見れば うっすら白い影
「時間が無いぞ」 彼の声
帰路へ着こうとする 先輩へ
駆け寄った時には もう遅かった



白いもやもやが あたしを覆う

先輩、あたしが見えていますか?


伝えたいこと たくさんあったのに
時に迫られた 弱いあたしは
頭の中まで もう真っ白だ



しずくに濡れた 前髪の向こうに
驚いている 先輩の瞳

精一杯に 笑顔をつくった

これが あたしの最後の言葉



「大丈夫、明日はきっと晴れますよ」







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