Short Story

□barrier(バリア-)
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君の、そばにいたかった。


手放したくなかった。
誰よりも近くにいたかった。


届かないことは分かってる
伝えられないのは 君も同じ。



だけど、苦しかった。
もう 耐えられなかった。

時間をかけて築いた
宝物のような距離も
僕には、ただの空白でしかない。


僕にしか見せない笑顔だって
こんなに近いのに、
触れられないほど儚い。

誰よりもそばにいて、本当は遠い。
越えられない城壁は、
いつだって 僕の前。



壊してやりたかった。
海の底で拒絶を繰り返す君を
僕が、抱きしめてやりたかった。



許されぬことは 分かってた。



「好きだよ。」


その一言で、君は全てに縛られて
僕は全てを失った。


君の気持ちだって分かってた。
こうなることが怖くて、
みんな遠ざけていることも。



君の優しさを、
僕は踏みにじったかもしれない。


あの時の君の表情を
僕は永遠に忘れない。


絶望と恐怖、崩された愛情。


(間違ったのは 僕?)


世界に離された僕らは、
二度と会うことはない。


気持ちを確かめ合うことも
出来なかった僕ら、
閉じ込められた世界で、
惹かれ合うのは 当然だった。



触れられぬほど 温度が恋しい。
すました瞳は 僕を
避けるように揺れた。




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