ハガレン+その他

□名付け親
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夢を見て上京したは良いけれど、田舎者の僕に、都会の風は冷たくて。
僕の絵を見てくれる人も、僕自身を見てくれる人もいなくて、孤独感に押し潰されそうになっていたとき。
一匹の黒猫に出会った。
周囲から忌み嫌われている彼と、今の自分が重なって。
思わず、その黒猫を抱き上げていた。
「今晩は、素敵なおチビさん。僕ら良く似てる」
僕と一緒にされるのが嫌だったのか、その猫は僕を引っ掻いて逃げて行った。
でも、僕は諦められなくて、その猫を追いかけた。


一人と一匹で、一緒に暮らし始めた。
僕はその猫に名前を付けた。
「黒き幸『Holy Night』…それが君の名前だよ」
僕は来る日も来る日も、Holy Nightの絵ばかり描いた。
いつしか、僕のスケッチブックはほとんど黒ずくめになっていた。
そうするうち、Holy Nightも僕に懐いてくれて、甘えてくれるようになった。

だけど―――

貧しい生活に、僕の身体は限界を迎えた。
僕はもう長くない。
そう思い、最後の手紙を書いた。
そして―――
「走って、走って、こいつを届けてくれ。夢を見て飛び出した僕の、帰りを待つ恋人へ」
Holy Nightに託した。
ごめんな。
今、僕が頼れるのは…君だけなんだ。
Holy Nightは、僕から手紙を受け取ってくれた。


あぁ、どうして誰もわかってくれないんだろう。
黒猫は不吉な存在なんかじゃない。
悪魔の使者なんかでもない。
現に、僕はHoly Nightと一緒に暮らせて…
とても、幸せだった―――





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