ハガレン+その他

□悪の娘と召使
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レンは買い出しのために街へ出ることが多かった。
この日は隣りの緑の国へ出かけた。
八百屋で買い物をしているレンに、一人の少女が声をかけて来た。
「あら、見掛けない人ね。異国の方かしら?」
レンが視線を向けると、少女は明るく微笑んでいた。
「このお店では、葱がおすすめよ。他には…芋とか!」
少女は葱や芋を手に取って、レンに勧める。
レンは少女に言われるまま、葱と芋を購入した。
「ありがとう!」
一際明るく微笑んだ彼女は、お礼を言って去って行った。
「今のは?」
レンは八百屋の店主に少女のことを尋ねた。
「この国の王女…ミク様だよ」
店主の話によると、この国の王女は街へ出て民と接することが多いらしい。
そのため、民からの信頼も厚いのだそうだ。
彼女のように、リンも街へ出られたらいいのに…
レンは、ミクにリンを重ねてみたが…
今の国の情勢では、無理な話だった。

王は民のことを考えた政治をしていた。
民はもちろん、家臣の中にも王を慕う者は沢山いた。
しかし、そんな彼らは反対勢力によって、一人残らず僻地へ飛ばされてしまった。
王に憧れ、王のような政治を目指していたリンの周りは…
民のことなど考えず、私腹を肥やすために国を食い物にする家臣で囲まれてしまった。
そして、家臣たちはリンの話を全く聞かず、そのくせリンの名前を使って政治を行ない、リンを城に閉じ込めていた。
民の不満は、リンに集まるばかり。
いつしかリンは、悪の娘と呼ばれていた。

「全く!」
家臣たちとの形ばかりの会議を終えたリンは、不機嫌そうに自室へ戻って来た。
すると、教会の鐘が鳴った。
ゴーン…ゴーン…
「あら、おやつの時間だわ」
リンが呟くと、レンがティーセットとおやつを持って来た。
「今日のおやつはいもけんぴですよ」
底の深い器の中には、香ばしい『いもけんぴ』が入っていた。
「ブリオッシュがいいわ」
リンが駄々をこねると、レンは「では、明日はブリオッシュにしましょう」と言って微笑んだ。

リンはいつも、おやつの時間を楽しみにしていた。
おやつを食べるのはもちろんだが、レンとの語らいも楽しみの一つだった。
古くからの言い伝え、街での噂、街の様子…
レンはいろいろなことを話した。
普段不機嫌なことが多いリンも、この時ばかりは楽しそうに笑っていた。

ある日、近隣の国の上層部の人々を集めたパーティが開かれた。
そこには、青の国の王子カイトや、緑の国の王女…ミクもいた。
リンは王女として、それらの人々の相手をした。

数日後、家臣達はリンの命令と騙り、開戦を宣言した。
相手は緑の国。
緑の国は農業や商業を基本とした国で、軍事はあまり重視していなかった。
そんな相手に対し、軍事を重視して来た家臣達は、容赦なく軍事力を振るった。
幾多の家が焼き払われ、幾多の命が消えていく。
そんな様子をなるべくリンに伝えないよう、レンは細心の注意を払った。
「ねぇ、緑の国との戦争はどうなったの?」
「あれは…国民の反感を買って、頓挫しましたよ」
ありもしない嘘。
しかし、本当のことを聞いたら…
リンは酷く傷付くだろう。
それはレンにとって、最も阻止すべきことだった。
「…それより、今日のおやつはブリオッシュですよ」
レンが取り出した皿には、ブリオッシュが盛り付けられていた。
それを見たリンは、嬉しそうに笑った。

緑の国は戦争に負け…
併合された。
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