MARIA

□わたしたちのlove story
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福沢祐巳、松平瞳子

紅薔薇姉妹は2人で寒空の中、帰りのバスへの道のりを歩いていく。




「毎日寒いけれど、なかなか雪は降らないわね。私雪の日って結構好きなの。」

白い息を確認しながら祐巳が妹の瞳子に言った。



「お姉さまはまだまだ、お子さまなところがおありですのね。」




その言葉に祐巳はムッとして言い返す。



「あら、いいじゃない。サクサクって音たてながらロマンチックな雪景色の中、手を繋いで暖めてもらったりして、夢みたいでしょ?」





瞳子は少し驚いたような顔をしていた。


「あら、私てっきり雪だるまつくったり、雪合戦して遊べるからだと思っていました。」





「あのねー。確かにそれも毎年楽しみだけど、私だって成長するのよ。」




そこがお姉さまの良いところだと思っているのですが、ということは言わないでおこう。




「もしかして、さっきお姉さまが言っていた雪の中で手を繋ぐとかなんとかって、
今流行っている恋愛小説のことですか?」





「あっ!分かった?」


やれやれ


「影響されやすいんですのね。」





「だってあれすごく感動的だったもの。私初めて読んだときは思わず涙ぐんじゃった。」






瞳子はその小説の中身を思い出してみた。




「・・・あぁ、そういうことですか・・。」





「ん?何、瞳子。」







「・・・いえ、なんでもありませんわ。
ねぇお姉さま、あの小説を読んでどう思いました?」






「え?・・うーん・・・。」








瞳子の質問に少し悩んだ祐巳が口を開く。




「・・・私は雪が降る中、
別れを決めた2人がもっともっと別の道を見つけられるんじゃないかと思った。
作品としてはそれで終わったから綺麗なのかもしれないけれど、
やっぱり愛し合っている2人が引き離されてしまうのは寂しいじゃない?
あのままお互いの手の温もりを感じながら雪の中で幸せになる、そんなエピソードでも良かったんじゃないかな。」








そう言ってお姉さまは切なく笑った。









「そうですか。」








瞳子はそっと祐巳の手に触れた。
大丈夫ですよ、口に出して言えないけれど
この気持ちが伝わるように。








「冷えますわね。」




「そうね、瞳子。」






もうすぐバス停につく、私の寂しさを全て受け入れてくれたお姉さま、だから私にも分けて欲しい、お姉さまの苦しみを。








小説の内容は、恋をしてはいけない間柄の男女2人が恋に落ち
愛は深まるばかりで、最終的にはお互いの事を想い
雪の中でかたく手を握り合って涙を隠し別れを告げる。




ありがちなストーリーではあるが、
お姉さまは自分と重ねていたんだろう。






大好きなこの人が愛する人と幸せになって欲しい。
瞳子はそう想うばかりだった。




















「ただいま。」


祐巳が声をかけると家には祐麒だけだった。




「おう、おかえり。さむかっただろ?」




笑顔をむける祐麒に、祐巳は胸が苦しくなった。



「さむかった。」


そう言いながら祐巳は祐麒の肩に頭を預けた。




どうしたんだろうと心配そうに見つめる祐麒に
何も言わず、祐巳は黙ったままでいる。







(いばらの森も、あの恋愛小説も寂しすぎるよ。)

祐巳はあの小説たちのような結末を見て不安にならないことはなかった。







「私たち色々な人に支えられてるね。」

今日瞳子が触れた手の温もりが確かに教えてくれた優しさ。






「これからも支えて貰ったり、支えたいと思ったりの連続で生きていくんだろうな。」


そう祐麒が言った。




ソファに座ったまま祐麒と祐巳は手を繋いだ。




わたしたちは、わたしたちの手で物語をつくっていこう。
きっと幸せになれる。君が隣にいてくれれば。



そう握り合った手に想いを込めて。

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