MARIA

□今の君は
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満員電車の中、祐麒と祐巳は体が余裕で触れ合うほど近くにいた。






「祐巳、間に合いそう?」
そう問いかける祐麒。







「私は絶望的。祐麒は?」







「同じく。」








この日の朝、福沢一家は家族そろって寝坊してしまった。


祐麒と祐巳は急いで電車に乗ったものの、
いつも通う電車より遅い時間のためラッシュを避けて通れなかった。











「ったく、ついてないな。」




そう言いながら祐麒は祐巳をちらりと見ると、青ざめた顔をして今にも倒れそうになっていた。






「おいっ!祐巳、大丈夫か?」





「ごめん、気持ち悪くなっちゃった。」






普段ラッシュの電車に乗らない祐巳は、貧血を起こしかけていた。






「次で降りようか。」






「うん・・・。祐麒、次の駅に着くまで・・・祐麒に寄りかかってもいい?」







「あぁ、いいよ。つらいか?」










「こうしてると、だいぶ楽。」







祐巳は、祐麒の胸の辺りに頭を預けて、寄りかかり
祐麒は祐巳が倒れないように肩を抱いてやった。









しばらくして同じ車両にいた、高校生の男女が話しているのが聞こえた。多分2人はつき合っているのだろう。

そんなことを思っていると、こっちを見ながら、その2人が小さな声で話しているのが、少しだけ聞こえた。

「彼女、気分悪くなっちゃったのかな?」
女の子の方が彼氏に話しかける。


「あぁ、そうみたいだな。でも彼氏ついてるし大丈夫だろ。」


「私がああなっちゃったら、あの彼氏みたいに支えてくれる?」












そんなやりとりが聞こえて祐麒の顔は赤くなった。




(俺と祐巳、カップルだと思われてんの?)




祐巳は下を向いているから、2人の顔が似ていると分からなかったのだろう。





こんな時に不謹慎だが、祐麒はその事に、うれしさと照れくささで胸いっぱいになった。

同時に切なさも押し寄せてくる。
どうやったって自分たちの姉弟という関係は消えないということ、
本当に恋人だったらどれほどよかったかということに。









(そういえば、前に祥子さんにも「2人は恋人同士のようね」なんて言われたこともあったな)
祐麒がそう思い返していると、駅に着いた。






祐巳を抱えるように電車から降りて、ホームのベンチに2人で腰掛けた。




「大丈夫か?」





「うん、少し休めば良くなると思う。」







「そっか。」
祐麒は安心してため息をついた。





「祐麒・・・・ありがとう。」



そう言った祐巳に祐麒は微笑んだ。










今の君も僕の恋人に見えるかな?

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