MARIA
□贈り物
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薔薇の館ではバレンタインイベントも終わって、少しずつ仕事も落ち着き始めていた。
めずらしく薔薇の館では祐巳と志摩子の2人だけ
黄薔薇姉妹は試合が近いため部活動に。
瞳子も同じく部活動へ行ってしまい、祥子さまと乃梨子は家の用事で帰ってしまった。
「志摩子さんと2人でいるのって久しぶりだね。」
「そうね、最近何かと忙しかったから。」
そういうと志摩子は席を離れて窓辺に足を運んだ。
「ねぇ、祐巳さん。ちょっと、」
そう言って祐巳を窓辺へと手招いた。
「どうしたの?」
祐巳が志摩子に近づくと、志摩子は祐巳の髪を撫でた。
「祥子様、祐巳さんの髪をよくこうして触っているでしょう?」
「うん・・・・・。」
(少し驚いた。髪を触られるのは嫌いじゃない。相手と近くなった感じがする。)
とても安心する。
(ただ志摩子さんの綺麗な顔が近くて緊張した。
お姉さまと似ているけど少し違う緊張。)
祐巳の視線に気づくと志摩子はふわりとした笑顔を祐巳にむける。
「不思議ね、とても落ち着くわ。」
「・・・私も志摩子さんと同じこと思ってた。」
「本当に?とても嬉しいわ。そうだといいなって思っていたの。」
志摩子は微笑みながら祐巳を見つめた
「うぅ、志摩子さん、今私の考えてること読んでるっ。」
「・・・ふふっ、祐巳さんはやっぱり面白いわ」
(志摩子さんはよく分からない。だから、ここでいつも通り微笑んでいても、すごく不安になる。目を離せばどこかへ行ってしまいそうで。)
祐巳も志摩子の髪に触れた。
「・・・・祐巳さん」
気づけば祐巳の目からは涙が零れていた。
「私ねっ、・・・聖さまや・・・乃梨子ちゃんのようにできないけどっ・・・・・・一番近くじゃなくていいから・・・・・・少しでも志摩子さんのそばにいたいっ・・・・だからっ」
(いなくならないで・・・。)
志摩子はそっと祐巳の両手を自分の手で包み込んだ。
「祐巳さん、私には贅沢すぎるくらい嬉しい言葉だわ。
・・・・・私ね、祐巳さんがここにいてくれるなら私もここにいたいと、そう思うのよ。」
「私も志摩子さんと同じこと思ってたよ。」
「伝わっているのね、すべて。」
小さくて、ささやかだけど
今ここで起きた確かな奇跡。
マリア様、あなたの贈り物、しっかり伝わりました。