短編

□理性も何もナイ
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昶を椅子に座らせると、意識が戻ったのか薄く目が開いた。
「……白銀、行ったの…か?」
「意識が戻ったのかい?」
「ああ……」

いっそ気絶していたままのほうが良かったかもしれないと思った。
これから治療の際に襲う痛みに恐怖する。
これだけの傷なのだから、きっと治療はいつもより数十番は痛いはずだ。
(ショック死、なんてことにならなけりゃいいがな)
笑えない冗談を呟き、上半身を机にうつ伏せて大量出血している背中を秋一に向ける。
「じゃあ、やるよ」
背中に癒しの手が触れた。
「……?」
触れた手から熱い塊が生まれたかと思うと、それは体の内部へ侵入していった。
いつもは外側から攻撃的な痛みを伴いながら治療していくのに、今回はまるで違う。
「昶君があんまり痛そうに悲鳴をあげるから、内側から治す研究をしていたんだ。痛くないだろ?」
穏やかな口調で説明する秋一の言う通り、痛みは全く無い。
「すげえ…」
「でも……」
「え、どうし………っ!?」
ふと内部に入った熱い塊が、徐々に下へと移動していくのを感じた。
やがてそれは下腹部で止まり、微かな甘い疼きに変わる。
昶の動揺に気付かないのか、秋一は続けた。
「まだ研究中だから分からないんだけど、痛みの代わりに何か変わった点はある?」
「あ、っと…」
もしかして、この疼きは痛みと引き換えの症状なのだろうか。
(…そしてそれを、マスターは知らない)
「…ちょっと体が熱いくらい、かな」
「体温の上昇ってことか……」
顎に手を添えて考え込む秋一に、「実は感じてます」なんて言えるわけが無い。
それにこれくらいだったら我慢できる。
ぐっと息を張り詰めると、気を紛らわすために他のことを考えようとした。

その時、とたんに襲いかかってきた衝動。
「…っあ」
「痛むかい?!」
「あ、…少し」

浅い呼吸を繰り返し、胸元をぎゅうっと握りしめる。
ゆるやかにだが確実に迫ってくる熱の波に心急かした。
秋一に痴態を見せるようなことだけは避けたい。
口元を手で覆い、指を噛んでなんとか耐え凌ごうとする。
額に汗がにじんだ。
「ま、マスター。もう帰ってもいいだろ?大方血は止まったみたいだし」
「え!?ダメに決まってるでしょ」
「そうか?だいじょ、ぶじゃねっ?――…っ」

体の芯があつい。体中全部ほてっていて、呼吸がだんだんと乱れていくのが自分でもわかる。
ひとりだったら確実にズボンに手を差し入れているところだ。
さすがに様子がおかしいと感じたのか、秋一が肩に手を置いた拍子に昶の体がビクンと揺れた。
「はあっ……」
鼻にかかった声は普段自分が出すことは絶対にないようなモノで、絶句したのもつかの間、体内の熱い塊がまた暴れ回った。

熱い くるしい。
どうしようもない快楽が体を支配していく。
それでも秋一が隣にいるためなんとか声を抑えようとするが、それも虚しく喉から甘い喘ぎが漏れた。
まるで治療のときの壮絶な痛みが、そのまま快感にすりかわったようで、別の意味で意識が飛んでしまいそうだ。
耐えられなくなりガクンと椅子からずり落ちて床に膝をつくと、秋一が慌てて介抱した。
「ん……っ、ン、んっ」
 荒い息遣いに頬を染め上げ涙を溜め込んだ表情は、秋一には見えていない。
目が見えなくて好都合だ、とこのときだけは思う。
背中をさするその手を掴み、引き寄せた。
そのまま無我夢中で抱き締め肩に顎を乗せる。
何かに掴まっていないとどうにかなりそうだった。

「ごめ、ん…ッ、あ、ぁ…っ」
「…昶君」
耳元で辛そうに喘がれては、秋一だっていやでも顔が赤くなる。
ふと、あそこに手が触れたが昶のそれは驚くほど熱くなっていた。
「抜いたほうがよさそう、かな」
治療は中断だ、と判断した秋一は抱き締められたままの体制で足を開かせ、チャックを下ろした。
壁に背をもたれ楽な体制になる。
不思議と嫌悪感は無かった。


「ぁ、ぁ、ぁ」
勃ち上がった性器をゆるく握り、上下に摩擦すると、声に比例してぎゅうぎゅうと抱き締める強さも増す。
「昶君、くるしいよ」
「あ、ワリ……ッ」
腕を緩めたのを確認して、行為を続行する。
ぐぢゅ、ぐちゅん、と音を立てながら先走りの液が飛び散った。
「ン、ん―――ッ!」
歯を食いしばって耐えるがままならず、昶は秋一の手のなかに白濁を放った。
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