短編

□王族薔薇支配
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「――で、」
「はぁ。」


「なんで一晩と半日で薔薇がこんなにでかくなってんだーー!!!」


呆れた表情をしてベッドの上であぐらをかく昶を見下ろし、白銀は今の状況を見て苦笑するしか無かった。
学校から帰宅して部屋に入ってみれば、巨大な薔薇の大輪に恐ろしく太くて長い茎が部屋中にうごめいていたのだ。
唯一身を置けるスペースといったら、昶の座っているベッドくらいだ。

「しかも、薔薇が黒い…」
血のように赤黒い花弁に頬がひくつく。
その言葉に反応したかのように、棘を持った茎が勢いよく昶に向かって襲ってきた。
茎の先はまるで刃物のように鋭利で、あれに刺されたらただではすまないだろう。
「ドッペラー解除!」
昶はシンになると素早く攻撃を避け、茎はベッドのシーツを切り裂いた。

――ピッ
「…ッ」
一瞬のうち、頬に棘が掠める。
皮一枚が切れただけだったが、血が一滴零れ落ちた。
「クソッ!」
「昶くん、植木鉢です!」
白銀の声を聞き、昶は薔薇の根本――小さな鉢にヒビが入るほど強く、ティングナイフを突き刺した。

「……殺ったのか…」
みるみるうちに薔薇は生気を失い枯れ果てていく。
やがて砂になり、消えてしまった。

「随分とあっけなかったな…」
「ええ。見たところあれは影の世界の植物ですから」
「………。ああ!?」
「戦闘力なんて、無いに等しいです」
淡々と説明する白銀を見て、昶はどうも納得がいかない。
「なんでそんなものを悠が持ってたんだ…」
「確かなことは分かりませんが、闇の侵食が早まっているのに関係があるかと」
ま、分かりませんけどと笑顔で投げ出す白銀に、昶は溜め息をついた。
「しっかりしろよ…」
「それより、昶くん」
「あ?」

そ、と白銀の手が昶の頬に触れる。
顔の距離が、あと少しで互いの唇がくっつきそうなくらいに縮まっていた。
「…!おま、近い」
かすかに動揺して昶は視線を下に落とす。
白銀の見間違いでなければ、頬もほんのりと紅潮していた。
その様子に思わず笑みを溢すと、血の出ている傷口を舐め取った。
そのまま軽くキスするように唇を押し当てる。
「……白銀…、」
もどかしさと緊張で胸が張り裂けてしまいそうだ。
半ば頭が真っ白くなって、いつもの自分は普段、どんな風にこの状況を打破しているか思い出せなかった。
たまらずギュッと目をつむると、ふいに頬にあった熱が消える。

「傷、治りましたよ」
「お、おう…」

頬に手を伸ばすと、そこは元通りになった肌だけだった。
離れていった白銀の熱に一瞬だけ寂しさと物足りなさを覚えてしまった自分に嫌気がさす。

(その気持ちはきっと)

「つーかお前、普通に治せよ!!」
「うわあ」

白銀にアッパーを食らわすと、昶はシンを解いて部屋から出て行った。
もちろん、悠の屋敷に行くのだ。
「待ってくださいよー」
その跡を白銀が追いつく。



(きっと)

「……ありえねえ。」
「え、なんか言いました?」
「なんでもねーよ」


白銀に焦がれているから、なんて死んでも口に出さない。














→あとがき
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