短編

□月が欲しいと泣いたあのこ
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考え方も


性格も


口調も


まるっきり違う。



同じなのは、顔の造りと魂だけ。















「はは、違うって」
とある部屋の一室から、少年の笑い声が漏れる。
ベッドに横たわりながら穏やかに笑うのは昶で、彼のほかに部屋には誰もいない。
「それで、おかしいんだよ。そう、白銀がさ」
携帯も持っておらず傍から見たら不自然な光景だろう。
だが昶は、会話しているのだ。

――心の奥底から声が聞こえる。
それに気付いたのはごく最近で、最初は幻聴かと思ったがそうではなかった。
瞼を閉じれば、漆黒の長い髪の毛が揺らぐ。
その髪の主は驚くほど自分と似ていて、それでいて雪が溶ける春のような優しい表情をしていた。


ああ、彼が劉黒か。


最初から理解していたようにすんなりと受け入れられた。
かつて、自分は彼だったのだと。




「みんなお前に夢中だよ。白銀も洸兄も、焔緋も紫翠も、みんな」
『大丈夫、ちゃんと昶を見ている』
「嘘だ。俺じゃなくて、俺のなかにいるアンタを見てる。」

ひとりで胸の内に抱え込んでいた不安や辛さが、するすると音になって零れ落ちる。
他人に弱さをさらけ出せない性質なのに、なぜか劉黒には何もかも打ち明けられた。
彼にはそういう雰囲気がある。

劉黒は悲しそうな顔をして、昶の頬に両の手を添えた。


『昶』


名を呼び、額をぴたりとくっつけ目を閉じる。
見返りのない優しさを泣きそうな顔で与えてくれるのだ、彼という人は。

昶の瞳に涙がにじんだ。
劉黒の腕をそっと手にとって、もっと近く、と引き寄せる。








きっと世界の総てが敵に回ったとしても、彼だけは自分の側を離れないだろう。
何があっても、ずっと一緒だろう。



「劉黒、劉黒」


一番近くて、何もかも共有する存在。



















「昶君?」
「…あぁ、白銀。おかえり」

いつのまにか部屋には白銀がいた。
昶は半身を起こすと、目尻についていた涙の跡を拭う。
それに気付くことが出来たのは、己と魂だけ。










月が欲しいと泣いたあのこ
(私の存在がお前の枷になるならば、せめてもの罪滅ぼしに)












2008.12.8 お題配布/シュロ

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