短編

□理性も何もナイ
1ページ/4ページ



月の光が届かない、新月の夜。

「くっ…」
「昶君、大丈夫ですか!?」
ずるずると塀にもたれかかり、血の曲線がつく。
コクチとの戦いで昶は背中から腰にかけて大きな傷を負ってしまった。
まだシンになってから日も浅く、白銀に言わせれば「喧嘩と戦いを同一視」している中途半端な状態であり、これからの戦いに不安が広がるばかりだ。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
昶の服にはべっとりと赤黒い血が張り付いており、虫の息だがシンの状態なのでまだ命を繋ぎとめられている。
「…ぐっ……」
「待っててください、すぐマスターのところへ連れて行きますから」
白銀は傷になるべく触れないように横抱きし、急いでバーへ向かった。






「……酷い怪我だね」
鼻腔に広がる血の匂いに、秋一は思わず眉を顰める。
時刻は既に12時を回っており、店も営業は終了しているため店内には3人だけだ。
「…治せますか?」
白銀はこの人ならできる、という確信に似た眼差しで秋一を見つめたが、当の本人は困り顔で唸った。
予想外の反応だ。
「…そんなに、酷いんですか」
声がわずかに震え、冷や汗がでる。
そんな白銀の態度に一瞬はっとした後、両手を前で振ってみせ安心させるように笑った。
「大丈夫だから、そんな顔しないで。
今治療の仕方を研究していてね……ちゃんと治せはするんだけど」
はっきりしない物言いに白銀は訝しげに思いながらも、治療できると聞いて安堵の溜め息をついた。
「では、よろしくお願いしますね」
「ああ。それとごめん。昶君と二人きりで治療させてもらえないかな」
「?分かりました」
遠慮がちに言う秋一に白銀は頷くと、バーから出て行った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ