短編

□seven days
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おかしい。
もう一週間、白銀が好きと言ってこない。






Seven days







こんなことを思うこと自体、自分のペースが奴に相当狂わされていたのだと自覚するが、それでも毎日毎日飽きもせず

俺の手を取り微笑んで
「愛してます」
布団のなかに入ってきて
「好きです」

等発言しまくってセクハラしてきたアイツが、ここ一週間全く静かなのは、逆に気持が悪いものだ。
(それを賢吾に言ったら「素直に心配だって言えばいいのに」と笑われた。殴った。)

普通に会話はする。
世間話から闇の侵食の話まで、いつも通りする。
ただすっぽりと愛だの運命だの言わなくなっただけ。
だからこそ不安になる。
もう俺のことは、そういう対象から外れたんだろうか。
それに伴って、白銀はいなくなる事も多くなった。
書き置きも即席ドッペラーも残して行くけれど、前は風呂の時までついてこようとしていたのに今はそんな素振りは微塵も見せない。
だから、ほんのちょっと気になって、悩んだ。



日曜日。
仕事がオフの日だった洸兄の家に押しかけて話を聞いてもらうと、予想もしていなかった言葉が飛び出してきた。
「アキから好きって、言ったこと無いでしょ。」
「は!?」
突然何言い出すんだこの人は。
「たまには好きだって伝えないと。白銀だって感情あるんだから」
「………。」

そんなこと、とてもじゃないが恥ずかしくて言えない。
…と思う自分が女々しすぎて嫌になる。
更にこんな大変な時期に洸兄に相談している自分が嫌になる。
全部投げ出したくなってきて俯くと、洸兄は困った顔で「自己嫌悪しちゃってるなぁ」と呟いた。
全くその通りである。


このままここにいても洸兄の迷惑になるだけと判断した俺は、もうお礼を言って帰ろう身支度をしようとした。
その時、洸兄は何かひらめいたようにポン、と手を叩く。
「良いこと思い付いた♪」
「…どんな?」
むふふ、と手を口元に持っていき不気味に笑う。
「好きっていうの練習しよう!」
「……練習?」
「そ!アキはそういう事言うの、すっごく苦手じゃん?だから言い慣れておけばいざって時、言えるハズ!」
力説する洸兄に、一理あるな、と頷く。
普段から自分の気持ちに素直な奴は、大切な場面で言いたいことが言えている。
ようは、慣れだ。
洸兄は柄にも無く真面目な顔をして両手を俺の肩に置いた。
「じゃ、アキ。俺を白銀だと思って、好きって言ってごらん?」
「白銀と思って……」
「そう、白銀と思って」

復唱されると妙に現実味が沸いてきて、顔に熱が集中して首まで真っ赤になっていくのが分かった。
赤面すると瞳が潤むのが人間というもので、恥ずかしくなって目を反らす。
無意識に髪をぐしゃりと手で掻き乱した。

「ほら、頑張って」
「……っ」
相手が洸兄というのが唯一の救いだ。
でも白銀と思って言わなければ、練習の意味がない。
深く息をはいて、胸を落ち着かせる。


「………す……き、だ」

「もっとはっきり」

「…っ…す、すきだ」

「もうちょい大きな声で」

「〜〜っ好きだ!」


肺から空気を振り絞って、できる限り大きな声を出す。
それでも緊張のため普通の大きさになってしまったが。
息をついた瞬間、床に押し倒された。

これもシミュレーションの内なのだろうか。

「…好き……」
「…アキ、可愛すぎ」


ゆっくりと、洸兄の顔が近付いてきた。
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