短編

□恋かもしれない
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白銀の顔を見ていると、まるで精密に作られた人形のようだ、と思う。
大きなくっきりとした青い目に、雪のように白い肌、美しい白髪、そして一際目を惹く赤い唇。
これは女じゃなくたって胸が高鳴るものだ。
その完璧な造形をした横顔を見つめていると、昶の視線に気付いたらしく目が合った。
「あ…」
「昶君、ワタシの顔に見惚れていたんですか?」
「なっ…んなわけねぇだろ!」
まるで心のなかを覗かれたような絶妙なタイミングに、昶は少々焦った。
しかし白銀は人に容姿を褒められることに慣れているのだろう。いっそのこと謙遜するより開き直ったほうが楽かもしれない。

「…キミに見つめられると困ってしまいます」
そんな昶の反応を楽しむようにクスクスと笑う。
もちろん、戯れにからかっているだけだろうが。
「もう知らねぇっ」
「ああ、昶君」

プイッと顔をそっぽに向けあぐらをかき頬杖をつく。
(まるで子供じゃねぇかっ)
自分はこんなキャラだったか、と疑問に思う。白銀といると調子が狂って平素の自分が保てない。
昶は顔に熱がたまるのを感じながら、またちらりと横目で白銀を見やった。
瞼を閉じて微笑んでいるその表情は、一体何を考えているのだろう。

「〜〜〜っ」
そこまで考えて、自分の思考回路に絶句する。
―白銀の普段考えてることが知りたい?
―顔を見ると胸が高鳴る?
―からかわれると赤面する……これじゃまるで
「恋じゃあるまいし…」
「え!!?」
「ぉわ!?」
ボソッと無意識に呟いた声は、小さなものだったのにも関わらず白銀に聞こえたらしい。
勢いよくこちらを向くと、鼻先がくっつきそうなほどの距離で顔を覗き込まれた。
足の間を割って間合いに入ってくるので、昶の後ろを重心に支えていた手が後退る。
「昶君それって」
「近い近い近い!!」
そのまま勢いに負けて、何故かどんどん身体が押し倒されていき、最終的に昶は完全に床に伏せっていた。
「恋、しちゃったんですか?教えてくださいよ」
「…ッしてねぇし教えねぇし!」
「名前の最初がシで最後がネの影じゃないと認めません」
「それお前じゃん!」
ふざけた会話をしていると、不意に白銀の顔が真面目になる。

ドクン、と心臓が一際大きな音を立てて脈打つ。
青い瞳のなかに、自分の顔が見えた。
「…ッ白銀、」
顔と顔との距離が、だんだんと近くなってゆく。
ぱさりと長い白髪が昶の頬にかかった。
「…好きです、昶君」
もう少しで唇が触れ合う―――…


瞬間、扉が大きな音を立てて開け放たれた。
「あっきらー!!パン買ってき…た………ょ…」


目に飛び込んできたのは、今にも白銀に襲われそうな昶の図で。


「…ッチ」
「………」
購買のビニール袋を片手に硬直しているのは、金魚のうんここと賢吾だった。
運が悪いことにその後ろに続いて綾も入ってくる。
何故この二人が来たか、それは今昶たちがいる場所が屋上だからだ。

「昶…今何して」
白銀の下でしばし呆然と白くなっていた昶が、賢吾の声に現実に引き戻された。
「や、違、これは」
「とうとうバレてしまいましたねぇ。ワタシたちの秘密の関係が」
「お前は喋るな!!!」
力にまかせて白銀を押しやり、昶は火照った頬のまま賢吾の持っていた袋を引ったくった。
「俺の顔に虫がついてたのをとろうとしてたんだよ」
「あ、そうだったのか〜!飯食おうぜ」
「おう」
「いや賢吾、アンタ馬鹿でしょ…」
綾の呟きは賢吾の耳に届かない。
賢吾のバカさに感謝しながら、昶の心臓はまだ早鐘のように鳴り続けていた。

白銀の、間近で見た微笑みと赤い唇が頭に焼き付いて離れない。


(…っとに、調子狂う)








2008・10・4 恋かもしれない

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