短編

□盲目
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こんなにも依存してしまうのなら、いっそ俺を壊して。










盲目







最近の昶は不安定だ。
白銀が傍にいないといつもの一匹狼な態度が一変し、普段の彼とは思えないほど強い束縛意識を見せる。
綾や賢吾がいるときには絶対に見せない、もうひとつの表情(かお)と言ってもいい。
白銀はそのことに非常に満足していた。
昶の心に常に自分という存在がいて、自分を求めてくれる。
これ以上に嬉しいことはない。

(ですが、ここまで来ると辛いのはキミ自身だと思いますよ……)
白銀は今の事態に眉を顰める。
自室には昶と白銀の二人しかいない。しかしその間には緊迫した雰囲気が漂っていた。

「白銀。戦いが終わったら本当に影の世界へ帰るつもりか」
「…心苦しいですが、そのつもりです」
「何が心苦しいだよ…ッ」
昼の屋上で、何気なく質問してきた賢吾の一言がこんなにも昶を動揺させるとは思わなかった。
「昶君、」
白銀は昶の肩に手を置いて落ち着くよう促す。
しかし、勢いよく払いのけらてしまった。
「どうせ別れる時が来るんなら、最初から優しくするんじゃねぇ」
「―――…ッ」

バチンッ!

乾いた音を立てて頬を叩く。
「…馬鹿ですか、キミは」
昶は目を見開いて、しばし呆然とした表情をしていた。
その無知な顔さえ愛しいと思ってしまう。同時に、自分の気持ちを理解しようともしない、彼への怒り。
可愛さ余って憎さ百倍とは、このことだ。

「いつまでもそんな事を言っていたら、許しませんよ」
「…あ?」
「最初から優しくするな?と、言いますと昶君はどういった愛をお望みで?」
どうにかなってしまうくらいにワタシのことを好きな昶君。
これまでにないくらいに愛を注いでいるのに、これ以上一体どうしろと言うのでしょう。


昶の顎を掴んで上に向かせると、文字通り噛み付くようなキスをする。
そのままガリッと音を立てて舌を噛むと鉄の味が口内に広がった。
それをゆっくりなぞるように舐めると、痺れた舌がビクビクと反応を示す。
零れた唾液に血が混じっていた。

「しろがね、」


痛いはずなのに、昶はもっととねだるように白銀の頭を引き寄せる。



このまま溶けてしまいたい。
一緒の細胞になって同じになればいい。
舌も、重ねた指も、鬱陶しいほど邪魔な壁だから。












(ワタシがどれだけキミのことを想っているか、キミは想像もつかないのでしょう。)



2008・10・2 

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