短編

□王族薔薇支配
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見渡す限りの薔薇、薔薇、薔薇。

悠の家のばら園は、溜め息が出るほど美しい。
「綺麗ですねぇ」
「ああ」
といっても、昶はさほど花には興味が無いのでそこまで感動していないのだが。
「薔薇を育てるのって、難しいのでしょう?」
白銀は後ろにいる小さな少年、悠に尋ねた。
「うん。虫がついたりするとすぐダメになっちゃうからね。他の花より、育てるのは難しいよ。」
「……へぇ」
悠の説明に欠伸をかみ殺しながら相槌をうつ昶に対し、白銀は熱心に薔薇を観賞している。
普段何かに心を奪われることが無いように思える白銀がここまで興味を示しているのは、ある種珍しい光景だ。
その様子を見ていた悠は、執事の彦十郎に耳打ちをした。

「昶ー!白銀さーん!あたし達帰るけどー」
「おー。俺たちも帰るー」
遠くの屋敷の窓から手を振っている綾と賢吾、洸に向かって叫ぶと、昶と白銀はばら園を出た。

――今日は急遽、悠の家で今後の方針を決める会議を行ったのだが、結局それぞれ自由に過ごして終わってしまった。
悠は不満そうだったが、これ以上長居しても仕方が無い。
「…あ、ちょっと待って」
玄関にみんなが集まったとき、悠は立ち止まって彦十郎に合図をした。用意していたのだろう、少し小さな植木鉢を白銀に手渡す。
「これは…?」
「薔薇の種が植えられた鉢だよ。良かったらもらってくれる?」
「よろしいのですか!?」
「うん。育ったら教えてね」
「もちろんです。それでは、有りがたく頂戴しますね」
にこにこと嬉しそうにする白銀を、昶は横目でなんとはなしに見つめていた。



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