短編

□先端冷え性
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今の時期は気温が安定しないもので、昼は暑かったのに夜は急激に寒くなる。
現在の時刻はPM11:30。
昶はベッドに潜ると、ぶるりと身震いした。
その様子を横で腰掛けている白銀が目に留める。
「昶くん、寒いんですか?」
「ん。あぁ、ちょっとな」
「夜は冷えますからね…」
そう言った白銀は、特に考えるでもなく、羽織っていたコートを布団にかけた。
「それじゃお前が寒いだろ!」
「いえ、ワタシは大丈夫ですから」
ね、と有無を言わさぬ微笑みを向けられ昶は小さくお礼を言って目をつむった。
白銀も元の位置に戻り、寝る体制へと入る。


10分くらいが経過したとき、既に寝静まったと思われた昶が静寂を破った。
「………白銀、起きてるか」
「……あぁ、はい」
半分眠りの世界へと入り込んでいた白銀は、何事かと昶を見やる。
「お前、体温高いほうか?」
「え、いや、普通だと思いますが…」
「そうか…」
昶は少し考えるように目を伏せると、ベッドの端に寄った。ちょうど人一人分のスペースが出来上がる。
「一緒に寝ろ」
「………はい?」
「嫌ならいい」
「ちょっと待って下さい!そんな、昶くんから誘っていただけるなんて、ワタシどうにかなっちゃいそうです!」
眠気も吹っ飛びクネクネと頬を赤らめながら恥らう白銀を見て、昶は怒気を含んだ低い声でツッコむ。
「別の意味でどうにかしてやろうか?」

このままからかうと鉄拳が下りそうなのでおとなしく布団に入り込むと、昶の素足と白銀の素足が触れ合った。
「冷たっ、」
そのあまりの冷たさに反射的に足を引っ込めてしまう。
「だろ。」
昶は足をもぞもぞと動かし、摩擦で暖めようとするがあまり意味はない。
「可哀想に……今、暖めてあげますからね」
半分以上は本気の同情、あとのちょっとは如何わしい事を考え、白銀は昶の冷たい足に自身の足を絡めた。
「…ッ」
とはいえ、この冷たさには鳥肌が立つ。
血の通いが悪いとここまで氷のように冷たいのだろうか。

「白銀……サンキュ…」
「いえ、良いんです。それよりも、手とかは冷たくないんですか?」
体を向かい合わせて昶の手をとるとこちらも驚くほど冷たい。
哀れに思い、白銀はそっとその両手を包みこんだ。
「し、白銀、」
昶の頬はみるみる紅潮していくが部屋が暗いため白銀が気づくことはない。
心臓が早鐘のように鳴り、隣の白銀に聞こえるのではないかと気が気でなかった。

(なんだ…?こいつ、こんな優しかったっけ…)
「そういえば、男で冷え性ってかなり稀ですよね」
「え、あ、ああ。なんかたまに血液の循環が悪くなるんだよ」
「ぷっ、昶くん。先生みたいな言い回しですね」
「わ、笑うなよっ」
くすくすと笑う白銀を見て、昶も肩の力を抜いた。



――今の時間がずっと続けば良い。
決して口に出して言おうとは思わないが、確かな幸福を感じた。

心なしか、足も先ほどよりか冷たくない。
昶は白銀の足に思いきり足を絡ませ、すりすりと動かした。
包んでいた手はいつの間にか絡み合って手を繋いでいる状態になっている。
「ああ昶くん!?」
「ん…」
眠気が襲ってきたのか、とろんとした表情で白銀を見る昶は、頭を胸に預けると完全に眠りについた。
普段の彼からは考えられない甘え様。
「焦らすにも程はあります……」
溜め息をついて、白銀は涙が出そうなのを堪え昶の額に口付けした。
今日は眠れそうにない。


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