☆小説☆

□■蛹1■
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「男は診ねぇんだろ…」

前髪をかきわけ、額に手を当ててやると、欝陶しそうに手を叩かれた。

「オマエは特別。それにホントは女の子…」
「言うな!」

こちらが全てを言い終わる前に噛みつかれる。
ある程度予測はしていたが、今日は一段と虫の居所が悪いようだ。

「それ、今度言いやがったら果たすぞ」
「…ハイハイ、わかりましたよ。おぼっちゃま」

両手を挙げて降参のポーズをとると、獄寺はふて腐れたような表情をして、シャマルに対して背を向けてしまった。

(おぼっちゃま、ねぇ…)

そうなのだ。確かに今、男子中学生の格好をしているこの子供は、本当の性別は女だ。
数年前、この少女の実家に主治医として雇われていたことがあった。そのため、幼少期の彼女のことも診察したことがあり、どこをどう診ても女の子だったのは間違いはなかったと記憶している。

しかし、8歳で一人で城を飛び出して以後、彼女に何があったのか、程なくして聞こえて来た「スモーキン・ボム」の通名には『爆弾少年(バンビーノ)』という異名もついていた。
まさかなと思いつつ、思いがけない日本での再会は、完全な『不良少年』となった獄寺隼人だった。

マフィア界一のヒットマンからの指示で彼女、否、彼の通う学校の保健医となったが、獄寺はボンゴレ次期10代目の少年を心底慕って忠誠を誓っていることはすぐにわかった。
てっきり男装のことも話しているのかと思ったが、そうではないらしい。

何より驚くべきことは、獄寺の周りにいる人間はボンゴレ次期当主の少年も含め、誰も彼の本当の性別に気付いていないということだった。

シャマルからすれば、男にしては白く柔らかな肌を見ればすぐにバレてもおかしくないと思えるのに。

(真実を知ってるからそう見えるだけなのか?)

それにしたって、何かあるごとに獄寺に大仰なスキンシップを取っては殴られている野球少年も、本当に気付いていないのだろうか?自分とは違う肉の付き方をした身体に触れているというのに。

(全く天然揃いというか、見た目に騙されやすいというか…)

いずれ隠しきれなくなる時が来るのもわかりきっていたから、獄寺が自分から言い出すまでは口をつぐむことを選択した。
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