☆倉庫☆

□■邂逅(18Ver)■
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名を呼ぶ声も、体を支える腕も、そこから伝わる体温も、全て夢だと思った。


「なんで?」

我ながら間抜けな言葉が出たと思う。問いを投げ掛けられた相手はニヤリと笑みを浮かべ

「ばぁーか。オマエの考えそうな事なんて、簡単にわかるんだよ。一体何年の付き合いだと思ってるんだ」

と妙に誇らしげに返してきた。

今、雲雀がいるのは数分前までとあるマフィアの本部があった場所。これは匣の調査をする中で見つけた無用な集団のたまり場で、今回の殲滅計画はボンゴレとはなにも関わりもない行動だった。

いつものように一人でアジトに乗り込み、ボスも幹部も潰したところ、どこに隠れていたのか、三下が放った弾が足を掠めて思わず膝を付いてしまったのだ。

その直後、聞き慣れた爆発音とともに腕を引かれ見上げると、嵐の名を冠する彼が目の前に立っていた。そして冒頭の言葉に至る。


「まだいけるよな?」
「当たり前でしょ。君が来る必要だってなかった」
「その割に、撃たれてるじゃねーか」
「……掠めただけだよ」

傷は軽傷。軽くジャンプをしてもそれほどの痛みは感じない。雲雀が掴まれた腕を振り払うと、獄寺は軽く肩を竦めただけてすぐに手を離した。
それにしても気になるのは

「君、随分とはしゃいでない?」
「そりゃあ、これでオマエに貸しが作れるからな!」
「…可愛くない」
「可愛いなんて言われても嬉しくねぇよ」

会話をしながらも、瓦礫の影から向けられる敵意を察知し、そちらに足を向ける。

「おい」
「分かってる。口がきける程度には残しておいてあげる。これで貸し借りなしだよ」
「ちっ」

本来なら塵ひとつ残す気もなかったが、ボンゴレ幹部に見つかってしまっては仕方がない。一応、情報源を提供することで立場を同等のものに戻すことにした。

「それで、どうして君はここを知ったの?テレパシー?」
「呼んでもねぇくせに」
「呼んだら来てくれるの?」
「…気が向いたらな」
「じゃあ毎回僕が呼ぶたびにこなきゃいけないね」
「自惚れんのもいい加減にしろよ」
「僕は事実を言ったまでさ」
「可愛くねぇな」
「可愛くなくて結構。可愛いのは君だけで充分だ」
「もうしゃべんな。恥ずかしい奴」

プイと横を向き先に進もうとする背中に、もう一つだけ伝えたいことがある。

「8年と5ヶ月だよ」
「…?なんだよ、それ?」
「君が聞いたんでしょ」
「??」

振り返ってキョトンとする獄寺を追い抜き、雲雀は武器を構える。そして先刻の敵意の発生源に近付き、瞬時に仕留めた。
そして、弱者が地に落ちると同時に、彼は答えに至ったらしい。

「…こんな時に律儀にカウントすんな、バカヒバリ!」

と吠えるくせに、手はしっかりと証人を拘束するために動いていた。

(なんだ、つまらないな)

昔と比べると、小さな小石を投げたくらいでは、彼は動じなくなってしまった。大袈裟な反応が少しばかり面白いと思っていたから、からかっていたのに。


「お望みなら日数まで数えてあげようか」
「丁重にお断りするぜ。んなの数えたって意味ねぇだろ」
「…?」
「お前、時々鈍いよな…」

捕虜にさるぐつわをかませ携帯でどこかに連絡を取り(恐らく彼の部下だろう)、テキパキと指示を出しながら、雲雀とも会話が成り立つのだから、よくもまああれだけ一直線だったのに器用になったものだと思う。

「君にそれを言われるなんて心外だ」
「俺だって心外だぜ。けど、事実そーなんだから今こうしてんじゃないのか」

(あぁ、そういうことか…)

年月を経て成長や慣れという名の変化はあっても、僕らの本質は変わらないから、一度絡んだ糸は解いても解いてもまた絡まるのだ。そこに歳月の長さは関係はない。

「じゃあやっぱり、僕が呼んだら君は来てくれるんだね」
「…あぁっもう、そーゆーことにしといてやるから、帰るぞ」
「うん」

決して相入れない相手だと思いながらも、ここまで長く共に在り続けているのだから、彼との「腐れ縁」というやつを、そろそろ「運命」と読み替えてやってもいいかという想いは胸の内に秘め、雲雀は獄寺のあとを追った。


END

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