☆倉庫☆

□■君の望み■
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薄暗い室内には人影が二つ。
ソファに並ぶのは、この部屋の主である嵐の守護者と、雲の守護者だ。

「ねぇ、君をそんなに悲しませたのは誰?」
「・・・・・・・・・」

雲雀の何度目かの問いかけにも、獄寺はずっと黙ったままだ。
沈黙は嫌いではないが、それは場の空気にも拠るというもの。はっきり言って、今の状況はあまり好ましいものではない。

「そう。なら、思い当たるヤツを今からかみ殺してくるから、君はそこで黙って待ってなよ」

言い捨てた雲雀はソファから立ち上がり扉へ向かう。と、クンッと背後に抵抗を感じた。

「・・・何?」

顔だけで振り返れば、座ったままの獄寺が雲雀のスーツの裾を掴んでいた。行くなということだろうが、俯いたままではその表情は窺い知れない。

「離して」
「・・・・・・・」

銀糸を見下ろしながら、わざと冷たく言い放つ。いつの頃からか、彼は感情のままに言葉を発しなくなった。それは少しは大人になったと喜ぶべきことでもあるが、どこか物足りなさをもたらす変化でもあった。
雲雀は目を細めて、次の言葉を紡ぐ。

「・・・まずは山本武だね」

ターゲットの名を上げると、ピクリと反応があった。

「それから、六道骸も」
「・・・っ」
「そして、沢田綱吉。彼は絶対に潰すよ。君はいつだって彼のせいで悲しんでばかりいる」

前に進もうとすると、声は出さないくせにさっきよりも強い力で引かれる。そんな強情な態度に、雲雀は肩をすくめた。

「言いたいことがあるなら、ちゃんと言って」

もう一度、獄寺の隣に座り直す。昔なら殴り飛ばしてもいたけれど、それだけでは複雑な内面を持つ獄寺の心を聞きだせないと、いつしか知ったから。

少し身を屈めて下から覗き込むと、押し殺した表情の彼と目が合った。

「僕には我慢しないでよ・・・ハヤト」

名を呼ぶと、僅かに息が詰められ、続いてその表情が悲痛に歪む。
獄寺は何かを伝えようと口を開きかけるが、震える唇から言葉が出ることはなく、数秒後にはきつく噛み締められてしまった。

―――あぁ、これは何があったか絶対に言わないんだろうけど。

頬に手を添えて、上向かせる。
少し離れた執務机の上に置いてあるランプのオレンジ色が、間接照明となって獄寺の表情を浮かび上がらせた。そのまま見詰め合ったまま待つ。・・・彼の気持ちが落ち着くまで。

「・・・・・・・」
「・・・・・・」

やがて、雲雀の視線から逃れるように一度閉じられた瞼がゆっくりと開かれると、獄寺の手が動いて頬に触れている雲雀の手に重ねられた。

「ヒバリ・・・」
「うん」
「・・・・ここに、いろ」
「うん」
「お前は、ここにいろ」
「うん、わかった」

ようやく発せられた彼の望み。
それにやさしく微笑んで、ゆっくりおやすみと正面から抱きしめてやる。それから子供をあやすように髪を撫で、背をさすり続ける。

そうしている間、二人とも無言のままだったが、さっきの沈黙よりはずっといいと雲雀は思った。
少なくとも雲雀の行動に応えるように背に回された温もりがあるのならば。


END

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