☆倉庫☆
□■素直に■
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さらり、と指を通り抜ける銀糸に、雲雀はうっとりと目を細めた。
「・・・さっきから、何してんだよ」
「別に」
「飽きもせず、人の髪を触りまくって何が楽しいんだ」
ソファに腰掛け雑誌をめくっていた獄寺を、後ろから抱えるように座っている雲雀は、彼の言葉にこう返す。
「だって、キレイじゃない」
「どこが。ただの髪だろ」
そう。ただの髪。けれど、それが愛おしい者を構成する一部であれば、他の者とは違う意味を持つ。
「・・・キレイだよ。とても」
「勝手に言ってろ」
「どうして分からないかな。こんなにキレイなのに」
「ちょっ、オマ、エ、耳元で囁くな・・・っ」
「なんで?」
そんなの決まってる。
そう言わんばかりに獄寺の身体はふるふると震えていた。
無防備に雲雀の前に晒された項も耳も赤く染まっている。。
(逃げたっていいのに)
勿論、そんな素振りを見せようものなら即座に引き倒して泣かせるつもりだが、どういう訳か今日はいつもより大人しい。
「ねぇ、どうしたの?随分と大人しいじゃない」
もう一度、サラサラと流れる髪を撫でながら問いかける。
「・・・・・・」
「黙ったままだと襲うよ」
「・・・どの道、そうするくせに」
「そう思うなら、白状しなよ」
ふーっと耳に息を吹きかけると、びくりと肩が跳ねて身体が強張ったものの、
暫く何もしないで待っていれば、ゆるゆると緊張が解かれる。
やがて、彼の背中が雲雀に預けられ、同時に言葉が紡がれた。
「・・今日、オマエの誕生日だろ」
「あぁ、そういえばそうだったね。忘れてたよ」
「あのなぁ・・・まぁ、いい。だから、今日一日くらいは
オマエの好きなよーにさせても、いい、かな・・って」
最後の方は恥ずかしいのかぼそぼそと小声になったが、密着した体勢では聞き漏らすことはなかった。
「君はいつものままでいいよ」
「へ?」
「君は頭と顔はいいのに、短気で直情型でバカで向こう見ずで、
その癖自分の行動がどれだけ他人に影響を与えるか、まるで分かっていないんだから」
「テメェ〜〜俺を怒らせたいのか!?」
「何言ってるの。褒めてるんだよ」
「どこがっ」
今にも噛み付かんばかりに身体をよじって雲雀に向き直った獄寺の両頬を包むように手を添えると、
ぴたりと動きが止まる。こちらが発する言葉に期待と恐れを抱いているかのように僅かに緊張の滲む表情。
怖がる必要など何一つないのに。
「・・そういう君が僕は好きなんだから、いつものように悪態でも何でもつけばいい」
そう告げたとたん、真っ赤になって視線が泳ぎ始める。
「〜〜〜っ、オマエはどうしてそういうこと、はっきり言いやがんだ」
「素直じゃない君には、直球で言わないと伝わらないって事を学んだからね」
「悪かったな、素直じゃなくて」
「けど、素直になってくれるなら嬉しいよ。僕を祝ってくれるんでしょ?」
「お、おぅ・・・」
もっと抵抗されるかと思ったが、誕生日と言う日がそうさせるのか、
照れながらも肯定の言葉を返してくるのに内心驚く。
(でも、こういうのも悪くない)
「・・・誕生日おめでとう、雲雀」
顔を見られたくなかっただろう、首に抱きつかれながら囁かれた祝福の言葉に、柄にもなく雲雀は頬が緩るませ、返答とばかりに間近になった耳朶を噛んだ。
END