☆倉庫☆

□■アイアイガサ■
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確か、天気予報では雨は夜半過ぎからだったはずだ。

「早すぎだろ…」

昇降口に立ち尽くし、暗雲立ち籠める空を見上げる。
4時限目までは確かに晴れていたのに、いざ下校時刻に差し掛かるとポツポツと雨が降り出し、不本意な引き留めに遭った獄寺が帰ろうとする頃には、本降りとなっていた。

降り始めの頃なら沢田や野球馬鹿がそうしたように、ダッシュで帰ればそこそこの被害で済んだかもしれない。
しかし、音を立てているこの中に踏み出せば、校門を出る前に全身濡れ鼠なること請け合いだ。

「仕方ねぇ…帰るか」

もとより教科書類は全て机かロッカーの中、たいした物も入っていない薄い鞄も、一日くらい学校に置きっぱなしにしても困ることはない。
濡れるのは嫌だが、風呂に入ってしまえばどうにでもなる話だ。

ただ、携帯電話だけは、いついかなる時でも沢田と連絡が取れるよう持っておく必要がある。極力濡らさないよう、ハンカチに包んでズボンのポケットにしまった。

「よしっ」
「何してるの?」
「げっ、雲雀っ」

気合いを入れて一歩を踏み出そうとした直前、今最も会いたくない人物に呼び止められた。


「人の顔を見てその反応は失礼じゃない、獄寺隼人」
「はん、自分こそ人の顔見ては馬鹿にしたような顔してんじゃねぇか」
「ワォ、気付いてたんだ。意外に馬鹿じゃなかったんだ」
「んだと」
「で、何してるの?まさかこの雨の中、傘もささずに帰ろうなんて馬鹿なことはしないよね」
「むかつく言い方しやがって…!それもこれもテメェが風紀の取り締まりだとかなんかで、人を無理矢理居残りさせてくだらない反省文なんか書かせやがったせいだ!」
「元をただせば、風紀を乱す服装をしている君が悪い。自業自得」
「んだと…!」

いきり立つ獄寺を軽くいなし、雲雀はこう続けた。

「この雨の中、濡れて帰って風邪でもひくのは許さないよ」
「なら止むまで待ってろっていうのかよ」

明日まで降り続くと予想されているこの雨に濡れるなということは、一晩中、ここにいろということか?

「僕と帰ればいい」
「は?」

返された言葉の真意を掴みかねて聞き返す間もなく、

「いくよ」
「え、ちょ…あっ、おいって」

手首を掴まれたかと思うと、あっという間に外へ。濡れてしまうと身構えるが一向に水は落ちてこない。

「へ…?」
「ほら行くよ」

見上げれば黒色に覆われた空間。傘の中。

「……」
「どうしたの?」


「いや、お前のイメージを裏切らねぇ傘の色だなって」

黒髪に黒い瞳。黒い学ランを羽織る雲雀には黒が似合う。そのままに今二人の頭上に広がるそれは、漆黒をしていた。

「君はビニール傘って感じだよね。雨が止んだらどこかに置き忘れて、雨の度にコンビニで買ってるんじゃない?」
「なんで知ってんだよ!気持ち悪いなっ」
「イメージだよ。ほら、もっとこっち。肩が濡れるでしょ」

ぐいっと手を引かれ肩がぶつかる。
それで気付く。さっきから手首を掴まれたままだった。それを意識した途端、顔に血が上ったのを自覚した。

「ひ、雲雀っ」
「何?」
「手!手!離せっ」
「嫌だ」
「嫌だって、誰かに見られたら」
「僕は構わない」
「俺は構う!!」
「君が騒がなければ誰も気付きやしない」

そう言って、雲雀が手を組み替える。さっきよりもより複雑に、指と指を絡ませる、所謂、恋人繋ぎというやつにしやがった。

「…っ!」
「校内にはもう生徒は残ってないから安心しなよ」
「…門を出たら誰がいるかわかんねぇだろうが」
「じゃあ、今日の帰り道は少し遠回りするよ」

手を繋ぐのはすでに決定事項で、譲る気はないらしい。
校内と外界を区切る境界線を躊躇いもなく越えると、いくつかある獄寺のマンションへのルートのうち、一番人通りの少ない道に雲雀は足を向けている。

(あぁ!もう!チクショー…)

今日は雨で、その酷い雨脚が道行く人々に周りを気にする余裕を奪っていてくれるから。

(今日だけだからなっ)

繋いだ手を一度だけ強く握り返し、わざと肩をぶつけて距離を縮めた。


END

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