☆小説☆
□■指先の恋■
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最近、携帯メールでやりとりを重ね告白もメールでする恋のことを、親指の恋という。
バサリと投げ出した没収品の雑誌に書かれていた一文が、ふと雲雀の目に留まった。
(メール、ね…)
数ヶ月前の雲雀なら、規則違反の雑誌など即破棄していただろう。
しかし、そうしなかったのは、これまで風紀委員たちの報告メールだけだった着信履歴に、ある特定の人物の名が増加し出したことが関係していた。
右手で頬杖を付きながら、夕暮れの応接室で記事に目を通す。
そこには親指の恋に対する賛否両論が、読者の投稿を元にメリット、デメリットがまとめられていた。
曰く『直接だと恥ずかしくて言えないこともメールなら言える』や『大切なことはやっぱり直接いうべきだと思う』などだ。
「……」
雲雀からすれば、好きだとか嫌いだとか、そういうのは面と向かって言えばいいのだと思っているし、実際そうしている。
だが、雲雀のようにできない者も世の中にはいるのだと、「彼」を通して知ったのは最近。
例えばそれは、雲雀の携帯は発信履歴より着信履歴の方が少ないことや、逆にメールは送信数より受信数の方が多いことにも表れている。
始めこそそれが原因で喧嘩もしたが、手段こそ違えど、気持ちを表すことに代わりはないと解ってから、それによる言い争いは減った。
ざっとひと眺めしたところでパタンと雑誌を閉じ、ごみ箱に捨てる。
どんな方法であれ、当人同士が納得してれば、それでいい。
(帰ろう)
書類を引き出しにしまい立ち上がったその時、ポケットの中でメールの着信を告げる振動を感じた。
取り出して折りたたみ式のそれを開けば、メールが1通。
『件名:雲雀へ』
「?」
届いたメールは件名のみで本文は空っぽだった。
本文を打つ前に誤送信でもしたのだろうか?
だが何分待っても次のメールはこない。
どういうことなのだろうともう一度見直す。
やはり本文は真っ白…ではなかった。
小さなスクロールバーを辿り、下へ下へ…