☆小説☆

□■甘やかに秘やかに■
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言葉に含まれた好意を怖いと思う日がくるなんて、考えもしなかった。


「どうしたの?」
「…んでもねーよ…」


誕生日にはあまりよい思い出はない(否、あの人と会える日だったけれど、それも5歳の時に消えてしまった)から、日本に来て、仲間達に祝われることにひどく戸惑いを覚えた。


自分が生まれなければ、消えずに済んだかもしれない命があったのに。


それなのに、そんな存在の自分の生誕を言祝ぐ人達がいる。

どう返したらいいのか判らないと困惑すれば、優しい主はただいつものように笑ってくれればよいのだと言ってくれたけど。


紆余曲折を経て、特別な感情を置くようになった相手から「おめでとう」とは異なる形で甘く秘めやかに紡がれた言葉は、昼間、仲間達からもらった祝いの言葉とは違った意味で、胸を締め付けた。

「なんでもないっていう顔じゃないよね」
「っ…ひば、り…っ」

少し強引に手首を取られ、正面から雲雀の腕の中に閉じ込められる。

意図的ではなかったが、身を強張らせたこちらにどう思ったのか、宥めるようにつむじや額にキスが降って来た。

「怖がらないでよ」
「怖くなんてねーよ」

触れられた箇所からじんわりと広がる熱に胸が疼く。
湧き上がる雲雀に対する想いは、さっき雲雀が自分に告げた言葉と同じものなのだろうか?

(な、んか、泣きそーだ、オレ…)

目許が熱い。
歪む視界に気付かれたくなくて、雲雀の肩口に顔を伏せるようにぎゅっと抱きついた。


「ねぇ、顔が見たいんだけど」

やさしく髪を梳かれ、頬を撫でられては、もう抗う術はない。

顔を上げ、至近距離で視線を合わせれば、今まで見たこともないくらい穏やかな表情の雲雀がいた。

ぱちぱちと瞬くとゆっくりと、ゆっくりと顔が近づく。


『       』


唇の端で再度囁かれた言葉を、もう怖いとは感じなかった。


(多分、オレも…)



END



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