☆小説☆
□■想い合い■
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微かに触れた唇に動揺したのは、君よりもむしろ僕の方だった。
「っ…」
変えるつもりはなかったのに。一番になれないのなら、いらないと切り捨てたはずだったのに。
珍しく穏やかに会話をすることができて、心地がよくて、何となく近付けた気がしたから引き寄せらるように距離を無くした。
でもそれは、してはならないとずっと封じていたことだったから、してしまった後にしまったと思った。
「ひ、ばり…?」
「忘れるんだ」
「は…?」
見上げてくる視線を手で遮り、突き放す。
甘い夢など見ない方がましだ。
そう思ったのに。
「い、いやだ!」
踵を返し離れようとしたところ、いきなり学ランの裾を引っ張られた。
「何するの」
「オマエ、今の、自分だけでやったとか思ってるんだろ?!」
皺になりそうなほどぎゅっと生地を握りしめ、語気を荒くする獄寺は怒っているようだった。
彼にとってアレは不本意なことのはずで、それをなかったことにしようとしたのに、何故怒るのか。意味がわからない。
不可解だと眉間に皺を寄せたのをどう取ったのか、彼はまた叫んだ。
「言っとくけどな、キスをしたかったのはオマエだけじゃねぇんだよ!!」
「獄、寺…?」
目の前の顔は真っ赤だ。頬に触れたらきっと熱いんだろうと思えるくらいに赤い。
が、多分僕も同じくらい赤くなっている気がする。だって、らしくもなく顔が熱い。
もう一度、腕を掴みこちらに引き寄せてみる。彼は抗うことなく腕の中に収まった。
さっきよりもずっと近い至近距離だ。
「…どうして?」
「…理由なんか、オマエと同じに決まってる」
「そう…」
つまりは、そういうことなのか。
なんだかひどく嬉しくなって、目の前の身体をぎゅうと抱きしめた。
END
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