☆小説☆
□■不文律 前編■
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「またね」
「あぁ…」
名残惜しさを、絡めた指先で伝えてから、そっと重ねた身を離す。
必要以上に馴れ合わない。日時を指定する約束はしない。それはこの関係が始まった時からの不文律だった。
それでも、本当は。
「…ねぇ、明日は土曜日だったよね?」
立ち去ろうとする背中に呼びかける。
今まで一度逢瀬の終わりを口にした後に話し掛けることなんてしたことがなかったから、彼は怪訝そうな顔で振り返った。
「雲雀?」
後ろから、まだ閉じたままの扉と自身との間に挟み込むようにして痩身を抱きしめる。
この行動と先程の言葉から、僕が何を望もうとしているのか察したらしい彼は、身を強張らせた。
「だ、ダメだ!雲雀っ」
「どうして?」
「んなの、テメェも分かってんだろ?!」
「……」
不文律は互いが道を違わないためのボーダーライン。
僕が一番に守りたいもの。
君が一番に守りたいもの。
それはどんなに相手を好きになっても、変わりはしない。
もしそこに互いを据えるようなことになってしまったら、僕も君も、きっと自分で自分が許せなくなる。
だから、それを見誤らないための暗黙のルールだと、そう思っていた。
でも。