☆小説☆
□■片想い■
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−−これはまだ、僕らが恋愛に臆病だったころの話。
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放課後の校舎。一日の最後の仕事は見回りだ。
人少なの図書室で、自習用の机に突っ伏している君を見つけた。
きっと2-Aで行われている数学の補習に出ている沢田を待っているのだろう。そう推測しながら近づく。
「………」
彼の周りには古代遺跡やら超常現象やらの本、加えてオカルト特集された雑誌までが散らばっていたから、ここには始めから睡眠目的で来たわけではなさそうだった。
(知的探求心は強いんだっけ…)
形ばかり一冊手に取ってページを流してみたものの、自分の興味を引く要素は少しも感じられなかった。
(変な子…)
本を元の位置に戻しながら隣の席に座ってみる。椅子を引いた時にカタンと音がたってしまったが、君が目覚める気配はない。
灰銀の髪。
幼い寝顔。
穏やかな呼吸。
普段から散々沢田を守るとか言ってるくせに、こうも易々と敵を近寄らせては意味もない。
「…そんなんじゃ襲われたって文句は言えないよ、獄寺隼人」
立ち上がり身を屈める。
まるで何かに引き寄せられたかのように−−ではなく、明確な欲求からくる意志をもって君に近づく。
「………」
無防備な唇に触れても、君は目覚めなかった。
だから、その日がたまたま君の誕生日だったとか、図書室を出ていく僕の背中に「バカヤロー」と君が呟いていたとか、そんなこと、この時の僕は全然知らなかったんだ。
END