☆小説☆

□■ジハク■
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息が詰まるほどの間合い。爆発しそうな鼓動。全身が痺れたように動かない。動けない。

「何か言いたいことがあるんじゃないの?」

いつもの小競り合いは、自分が吹っ飛ばされて決着するはずだった。
しかし、飛ばされかけた身体は、攻撃を繰り出した本人に胸倉を掴まれることで引き戻され、愛武器を喉元に宛がわれたまま肩を押され、背中を壁に押し付けられた。

予想だにしなかった状況に思考は混乱し、また顔に血が上る。

(ヤバイヤバイヤバイ…ッ!)

僅かに触れ合っている箇所から、相手の体温を感じ取ってしまい、じんと痺れた。

駄目だ駄目だと警鐘がなる。これ以上近づいたら、隠しきれなくなる。ずっと秘して来た想いを、言わざるをえなくなる。

「…正直に言ってしまいなよ」

もうすでに何かを確信しているような悪魔の囁きは、甘く鼓膜に響いて獄寺の身を震わせる。

(も、う…無理だ…)

囚われてしまったのは、ずっと前。その時から獄寺が雲雀に逆らう術は、恋心とともにもぎ取られてしまっていたのだから。


「…好、きだ…」

緊張から声は掠れ、微かに囁く程度の小ささだったが、至近距離の雲雀には届いてしまう。

怖い。もうきっと二度と視界に入れてももらえなくなるだろう。侮蔑に彩られた視線で、いっそ殺されてしまいたい。

なのに。

「今頃気付いたの?」

と返したのは、侮蔑どころか口に弧を描いた雲雀で。

「え…?」
「もうずっと前から君は、僕を好きでたまらないという言動ばかりしてたのに、自分で気が付いていなかった?」
「そんな、こと…」

だって、自分の中に生まれた想いを知られないようにと、ずっと抑えていたのに。それこそ細心の神経を使ったといっても過言ではない。

「例えそうじゃなかったとしても、僕はそう捉えたのは本当だし、今の告白を嬉しいと思ってもいるよ」
「ひば、り…」
「ねぇ、僕も君が好きだって言ったら、君は信じてくれる?」

じわり。
急速に熱いものがこみあげて視界を歪ませる。

はらはらと零れる涙を、いつの間にか武器を収めた雲雀の手が、やさしく拭ってくれていた。

「信じて…いいの、か?」
「いいよ。約束しよう」

そうしてゆっくりと重ねられた唇は、少しかさついていたけれど、流れこんでくるあたたかな熱が、想いが、確かに現実だと知らせていて、そのことにまた涙が溢れた。


END

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