☆倉庫☆
□■屋上■
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「……関係ねぇだろ」
「あるよ。僕の学校でそんな殺気を出されちゃ物騒で仕方がない」
「テメーが一番物騒なくせに、よく言うぜ。不良風紀委員長」
「やっぱり君は咬み殺されたいみたいだね」
カチャとトンファーを構えると、彼はようやく振り返り、雲雀と視線を合わせた。
―――あぁ、そんな目ができるなら、いつもしてればいいのに。
「今すぐ授業に戻らなければ、君を咬み殺す」
「………」
返答を聞くよりも前にトンッと地を蹴り攻撃を仕掛けようとして、だが不意に過ぎった嫌な予感に、とっさに後ろへ飛ぶと、つい先程まで雲雀が立っていた場所で小さな爆発が起こった。
(いつの間に…っ)
相手を見遣れば、口元に冷たい笑みを浮かべていた。
「…ふぅん、ただ群れて強がってる草食動物とは違うようだね」
「余計なお世話だ。果てやがれ!」
少なくとも、今の動きは実戦を経験している者がするものだと思った。
沢田達と群れている時には感じさせなかった牙を、何故今になって見せたのかは全く分からないが、恐らくはこの学校に来る前に身につけたものだろう。
「おもしろいね、君」
言うやいなや、身を低くして一気に距離を詰め相手の懐に入る。
「ちっ…!」
「遅いよ」
彼が身を引くのは予測済みだったため、それに合わせていくつかフェイクの攻撃を見せる。
見事にそのひとつひとつに反応したことにより出来た弱点を見極め、避けようとする行動よりも一瞬早く、手にしたトンファーで顎下に打撃を与えた。
ガッ…ッ!
勢いに飛ばされた身体は、背後の柵に当たり崩れ落ちる。
「ゲホッ…ゴホ…ォ」
「…いつもより悪くない動きだけど、接近戦では隙だらけだね」
「…いつもよりおしゃべりだな。そんなにしゃべる奴とは思わなかったぜ」
「??」
そういえば、そうだ。いつもは捨て置いているはずの相手に、今日は随分と自分は話し掛けている。
「?…ああ、そうかもね」
「オマエ、気付いてなかったのか?」
こちらの返答に戦う気を削がれたらしく、とたんに彼が張り詰めていた敵意が霧散した。
「…悪ィ、ちょっと虫の居所が悪かったんだ」
ばつが悪そうに後頭部を掻きながら獄寺は言う。
「別に構わないよ。僕としては、さっきの君の方が好ましいけど」
「なっ…好ましいって…」
「弱い者と群れて庇いあって余計に弱くなってるよりも、今みたいにひとりでいる方がよっぽど強いってこと」
「テメェ、野球馬鹿はともかく10代目は弱くねぇ…!」
喚き始める相手に興味はない。
「さっきの君なら、また今度相手をしてあげてもいいよ。じゃあね」
それだけ言い置くと、雲雀はくるりと相手に背を向けその場を立ち去ることにした。
意外な人物の意外な側面を見れたことで、少しだけ気分が浮上している。
だから、今日だけは屋上を使う権利を譲ってやることにした。
「けっ、そんときは絶対ェ倒してやるからな!雲雀!」
扉が閉まる直前、背中に届いた自分の名を呼ぶ声を、どこか心地よいと感じながら、雲雀は笑みを深くして階段を降りていった。
END