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□あなたしか見えない
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今日の海釣りが終って、ユキが給料を貰うのを近場で見守る。
4人の会話が終わるのを見計らい、ユキに声をかける。

「ユキ、ヘミングウェイでお茶しないか?」
「うん!」

まだ皆にはまだ言っていないが、俺とユキは恋人同士だ。
最近、ユキの敬語と「さん」付けがとれてより親密になった。

「俺も行く」
「ユキが行くなら僕も行くぅ〜!」
「お、何だなんだ?俺も交ぜろよ」
「皆で行こっか、アキラ、いいよね?」
「・・・あぁ」

「お前らは来なくていいのに」と心の中で毒を吐く。
夏樹とハルから、ユキを独り占めにはさせないといった目線を感じた。



「俺はコーヒーを、ユキは?」
「えっと、オレンジジュースで」
「デザートも頼んでいいぞ」
「あ、じゃあショートケーキも」
「はーい」

俺とユキはテーブル席に向かい合って座る。
あとの3人はカウンター席にこっちを向いて座っている。
なんでこっち向いてんだよ・・・

「お待たせしました〜」
「ありがとうございます」

ユキがショートケーキを食べはじめて、声をかけようとしたら、

「今日ユキが釣ったのシイラ、大物だったな」
「そーだったね!こ〜んなに大きかった!」
「接客もうまくなったし、オコゼにならなくなったよなぁ」
「そ、そう、かな?ありがとう」

だんだんムカついてきた。
俺はユキとの時間を楽しみたかったのに、ユキが俺だけを見てくれる時間が欲しいのに。

「最初はどうなる事かと思ったけど、こりゃシイラ以上の大物釣れる日が近いかもな」

そう言って夏樹がユキの頭を撫でる。
さすがにもう我慢の限界というか、やられっぱなしは性に合わない。

椅子から立ち上がり、「ユキ」と呼ぶ。
こっちを向いたユキの唇に自分のものを重ねた。
離れた瞬間、ユキが勢いよく立ち上がり、顔を真っ赤に染める。
俺は財布から千円札を取り出し、机に置く。

「ユキは俺のなんで、手出さないでくれます?それじゃ」

ぽかんとこちらを見ている4人を尻目に、ユキの手を引いて歩き出す。



「あ、アキラ、痛い」

ユキの抑止する言葉で我に返る。
どうやら浜辺まで来てしまったようだ。

「・・・すまん」
「大丈夫」
「赤くなっちゃったな」
「アキラ、その・・・」
「ん?」
「俺が、好きなのは、大好き、なのは・・・アキラだけ、だから。だから、えっと・・・」

ユキが続きを言う前に抱きしめる。
何を1人でムカついてたんだ、ユキはちゃんと見ているじゃないか。

「ユキ、ごめん。ありがとう」
「さっきの・・・驚いたし恥ずかしかった」
「うっ・・・ご、ごめん」

でも、あいつらに俺らが付き合ってるって見せつけたし、これで少しは牽制できただろう。
と考えてしまうあたり、大人げないな。とユキの温もりを感じながら苦笑をもらした。



おわり

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