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□他人以上、親友未満
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俺と夏樹の出会いは最悪で。
席を譲れなかったところを見られ、ひとりでテンパって。
自己紹介しようとしたらアイツがいて、ひとりでテンパって。
でもきっと、そこから始まってたんだと思う。

「ユキ、おはよう」
「おはよう、夏樹」

何回目だろう、名前を呼び合ってあいさつするようになったのは。
ユニノットができるようになって、面と向かって話して、その次の日から。
すごく嬉しかった、今でも嬉しい。
自分でもなんでこんなに嬉しいのか、よくわからない。

俺と夏樹の関係って何なんだろう。
夏樹って、何なんだろう。



今日は、ハルが妹との約束があるらしく、釣りをしに行かなかった。
でも気付いたら海にいて、砂浜にぼーっと座っていたら、隣りに影が見えて。
ハルが戻ってきたのだろうと目をやったら、夏樹だった。
今日はバイトないのかな。

「何してんの?」
「うーん・・・江ノ島観察、ネットで見つけた画像でしか見た事ないから」
「海は毎日見てるだろ」

夏樹が微笑んだ気がした。

「ホントの事言うと、夏樹の事考えてた」
「・・・俺?」
「夏樹って何なんだろうって」
「俺は、俺だろ」
「そうなんだけど」

ちょっと気まずくて、俯きながら話した。

「引っ越す事が多くて、前の学校でも全然友達できなくて、でもここに来たらすぐに友達ができて」
「お前とハル、すごく仲いいもんな」
「夏樹も、友達だよ」
「・・・そっか」
「うん、でも俺、友達のくせに全然知らない」

釣り王子って事しかって言ったら、それやめろよって言われてしまった。

「これから知ってけばいいだろ、友達はあれこれ聞いてからなるもんじゃない」
「そっか、そうだよね」

やっと顔を上げる事ができた。
でもなんか夏樹が焦っているような気がした。

「ユキ、なんで泣いてんの?」
「え?俺、泣いてんの?」

おいおい、般若の次は泣き虫かよ。とかつぶやく声が聞こえた。
泣いてるってわかったら、止まらなくなって。

「きっと、多分、友達ができて嬉しいんだと、思う」
「そっか」

泣いてる俺を面倒くさいと思ったかな、ちょっと寂しいな。
なんて言うのはただの杞憂だった、
夏樹の思ったよりも大きな手が背中をさすってくれた。
嬉しい。すごく、嬉しい。
このまま泣き止まなかったら、ずっと触れていてくれるのかな。

「なぁ、ユキ。今度、江ノ島観察に付き合ってやるよ」
「・・・いいの?」
「俺が画像よりも、うんと綺麗なところに案内してやる」

多分、夏樹と一緒に行けば、ひとりで見るよりも鮮やかに。澄んで見えるよ。

「今週の土曜日、10時に迎えに行くから」
「うん」
「約束」

そう夏樹が言うと、さっきまで背中をさすってくれた手でげんまんをした。
相手と自分の小指を絡める、約束を守るしるし。



じゃあねと別れた後、赤い目を気にするよりも心臓の音がうるさくて、
でもその音で溺れる事はなくて。
嬉しくて、すごく嬉しくて。
歩きながら、夏樹と絡めた右手を空に掲げて笑った。

ちょっと気付いてしまった自分の気持ちに蓋をして、友達のまま。
明日も明後日も、俺と夏樹の関係を、夏樹と言う人を知ろうとする。




おわり

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