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□あい あむ あ ぼーい
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「なぁなぁ、栄口。ちょっといいか?」

部活後、普段は三橋と帰るところを今日は栄口を誘った。

「俺?めずらしーね、田島が俺をご指名なんて。
三橋と花井ばっかじゃん、普段」

そう言って、でも笑顔で栄口は来てくれた。
普段あまり話さないけれど。
自分は栄口を買っていた。

大家族の一番下だから、一応気を使えるものの。
栄口のそれとは程遠かった。
栄口はみんなを見て、地味に目立たず、まとめている。
しかも、阿部や花井と負けず劣らずはっきりと物をいうところがあった。

「で、どうしたの?何か話したいこと、あんだろ?」
「やっぱ、栄口すげーな。よくわかったな」

そういうと、栄口は困ったように笑った。

「ふつーわかんだろ?で、なんだよ?」
「あの、な。自分でもよくわかんねんだけど」
「ふんふん」
「ある奴をな、見るとさ…なんかこう胸のあたりがもやもやすんだ」
「へー、で?」

やっぱりしっかり聞いてくれる。
本当にいいやつだ。

「話しかけられると、胸がぎゅーってなんだ。
これってなに?」
「なにってお前…」

また、栄口が困ったように笑って視線を逸らす。
一息ついて、視線が戻ってきた。
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