クロスオーバー
□Fate/ゼロ
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「ランサー、貴方は花壇に水を撒くように」
「へいへい、分かってますよぉ」
冬木市のとある一画、丘の上に一つの教会があった。
名を、言峰教会。言峰神父が掌握……もとい、管理している施設。
…であるのだが、今この教会を管理……否、掌握しているのは、傍から見れば、見目麗しい少女であった。
だが、その少女は性格がアレだったので、教会に住み込んでいる同居人を召使のように扱い、尊厳を踏み躙りまくっていた。
「…チックショウ。なんで俺がこんなことしなくちゃいけねぇんだっ!!」
悪態を吐きながら、花壇に水を撒いている男は、同居人の一人、ランサーであった。
彼は本来、英雄という人の手の届かない程の存在。
余り有る、圧倒的な力の持ち主―――なのだが、そんな凄まじい存在が、こうして水撒きに勤しんでいるのだから、何とも滑稽である。
「アハハ、ランサーさんは賑やかで楽しいから、外に出させて呼び子さんみたいなものだと思ってるんですよ、きっと」
無造作に教会から出てきた、金髪の少年。
この少年が、もう一人の同居人である。
その正体は、人類最古の英雄王、ギルガメッシュ。普通に考えれば、恐れ多い存在だ。
彼は現在、若返りの薬を服用しているため、本来よりもずっと若い姿をしている。だからこそ、今は“少年”と呼ぶべきなのだった。
「呼び子だぁ!? 全ッ然嬉しかないな! ってか、呼び子って笛じゃねぇか! 俺は笛扱いですかッ!!!」
ランサーは、現在教会を掌握している少女―――カレン・オルテンシアが来てからというもの、随分とピリピリしていた。
よくよく考えれば、そんなランサーに近付いているのだから、少年と雖(いえど)も、英雄王としての器量が窺えるというものだった。
「別に、そーいう意味で言ったわけじゃないですよ。ただ、僕はランサーさんが明るいから、みんなも明るくなれるってことを伝えたかっただけなんです」
「お、お前ぇ………良いヤツだなぁ……クウゥゥ………!!」
カレンの傍若無人ぶりに、人の温かさを忘れかけていたランサーにとって、今のギルガメッシュの言葉は、とても感動するものだったらしい。感涙していた。
そこまで濃い反応をするとは思わず、ギルガメッシュは少し引いていた。
「じゃ、じゃあ僕は倉庫を片付けてきますよ」
「おう、サンキューな! 俺の救世主!」
逃げるように、ギルガメッシュは教会に入っていった。