腐向け

□白く果てない世界で
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どうしたらいいのか分からなかった。
どうして動くのか分からないこの腕を、ぐちゃぐちゃに掻き乱せば分かりそうな気がした。

頬を抓れば痛い。指をかじれば痛いし、刃物で傷をつけても勿論痛い。痛みを感じることで自分がここにいる、生きているという証明ができると思った。生きているから、痛いのだ。


いつだってあいつは、何だかんだ言って俺の側にいた気がする。

あの、不純のない、真っ直ぐな暖かい笑顔も、蕩けてしまいそうな甘い声も、年齢にしては筋肉質で、しっかりした身体も。
頬も、髪も、目も、太股も、手も、何もかも全てが愛しくて、たまらない。

なのに、まだあの人を目で追い掛けている自分が、憎くて堪らない。ああ、自分にはこんな俺を愛してくれる人がいるというのに。未練を未だ消し去れない自分を、誰もいない殺伐としたフィールドで、両手に持ったボールを落としてふっと嘲笑った。


そしてある日突然、こころにぽっかりと、大きな穴が開いたような感覚に襲われた。考えても考えても、その穴が邪魔をする。いや、それは必然だったのかもしれない。だって、自らが敬愛して止まなかった、尊敬ではなく、密かな恋心を寄せていた鬼道さんが、帝国からいなくなったその日から。

何て言ったら分からない。ただ、一人、真っ白な果てのない世界に、取り残された気がした。







――――――
源佐久→鬼。

付き合ってる源田のことも大好きだけど、鬼道のことも同じくらい大好きな自分にイラつく佐久間。
 

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