短編

□気が遠くなりそうな、距離
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今日はいつもの通り仕事。
今回は雑誌のインタビューと写真撮影。
いつもお世話になっているヘアスタイリストさんと星野は仲が良い。
久しぶりの担当で話しに華が咲いたのがすべての始まり。


『風邪流行ってますね』


『ここんところ気温差激しくて油断したら風邪引いてさ。んで、家で大人しくしてたんだよな』


『俺も気をつけないとな』


『ハハッ、確かに気をつけないと仕事に支障きたすもんな。って、人の事言えた義理ないけど。でもたまには風邪引くのも悪くないって思った時あるぜ』


スタイリストによると、数年前の冬に風邪を引きオマケに熱も出していた。
その時も今回と同様に家に大人しくしていたが、ちょうど風邪を引いた当日は仕事終わりに彼女とデートの約束をしていたそうな。
だが、風邪を引いてしまい会えず渋々断りのメールを入れた。
すると約30分くらいすると家のインターフォンが鳴る。
思い身体を引きずりなんとかして扉を開けると、目の前には彼女がビニール袋片手に立っていて。
元々、実家が東北でこういう時に頼れる人間が周りにいない事を知っていた彼女は気を遣い、わざわざ来てくれたんだそう。
だが、風邪を引いているのだから移るよという彼の言葉を軽く無視して彼女は家に上がる。
彼女に押された形になるが、お粥を作ってくれたり冷えたタオルを持ってきてくれたり至れり尽くせり。

『こういう時って風邪引いても悪くないなって』


『へぇ〜羨ましいですね』


星野の声を聞いた夜天は。雑誌に向けていた視線を星野に向けると


(……………。スッゴい周りがキラキラしてるよ。てか、なんか妙な妄想してるんじゃ……)


夜天の見解通り、星野の頭の仲には自分が風邪を引いて寝込んでる所にうさぎが献身的に看護している姿を妄想していた。
その姿を見て半分呆れる夜天。
そこに大気が部屋に入ってくると部屋の空気が若干違う事に気づいた。
どうしたんだろう?と周囲を見渡すと、星野が未だ妄想の彼方に飛んでいる。
器用にスタイリストさんの話しに相槌を打ちながら。
もしかしたら話しの方より妄想の方に気を取られて適当に返事しているだけかもしれないがそこはあえて気にしないでおく。

『夜天……星野何かあったんですか?』


『ああ……まあね……色々と』
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