─冬────


今日もくたくたになりながら東京に戻ってきた。

『あー…腹減ったなぁー』

もう日が暮れていて風がとても冷たい。

薄暗い通りの街灯に照らされて、白く輝く。
奈緒子は立ち止まり、空を見上げた。

『あ、上田さん、雪ですよ』

上田もつられて見上げる。

『おぉ…本当だ』
『初雪、ですよね』

両手を口元に持っていき、息を吐く奈緒子をチラリと見た。

『…寒いな』
『寒いですね』
『…これ、使えよ。片方貸してやる』

上田は自分がつけていた手袋を外し、奈緒子に渡した。

『……片方…』

左手袋だった。

奈緒子は渋々手袋をつけて前を真っ直ぐ前を向いたままの上田を見上げた。

『……』

上田は奈緒子を見ることなく、自分の左手で奈緒子の右手を握った。

『………上田さん、手冷たい』
『お前こそ』

手袋してたくせに。
相変わらず役に立たない。

奈緒子は心でそう思いながらも上田の手を握り返した。

『腹減った…』
『……』
『お腹……空いた』
『……』
『……お、な、か!が!す、い『YOU!うるさい』』
『………ったく台無しだな…』
『はい?なんか言いました?』
『いや?何も』



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