trickbook

□七夕祭り
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お似合いの浴衣


ここは長野の実家。
久しぶりに戻って来た日、町中の人がとても忙しそうにしていた。
こんなこと滅多にないことだ。

母に聞いてみるとどうやら今年から町興しのために七夕祭りをやるというのだ。

最初は行く気なんかなかったのに。



ある日の夜、あの男が私を訪ねてきた。
どこからか七夕祭りをやるという話を聞いてきたらしく、私を誘ってきたのだ。
もちろん断った。

だけど…

私は………


奢るよ、という言葉に弱い。





今日は朝から慌ただしかった。16時を過ぎた今もまだ。
私には全く興味はないのだけれど。



風鈴の音に耳を傾けているとお腹周りをぎゅっと締められるのを感じた。

「うっ…!」

いつもよりスースーして少し変な感じがする。


でもやっぱりここまですることない。
まるで私が行く気満々みたいじゃないか。
あれほど嫌だと言ったのに。


と、うだうだそう思っていたのはほんの数時間前。
なんだかんだで昨夜、またうまく丸め込まれた私は今、こうして成す術もなく待っていた。

「はい、完成〜」

鏡に映し出された自分を見て少し首を傾げた。

「とっても似合ってるわよ奈緒子」
「…そ、そう?」

確かにまぁ…鏡の中の私はなかなかの美人だ。
でもやっぱり行く気満々に見えてしまうのが気にくわない。なんで浴衣まで着なくちゃならない。

「時間に遅れちゃうわよ」
「……いってきます…」

渋々家を出た。


仕方なくだ。

友達のいないあの人を哀れに思い、必死で奢ってやるからと私に頼んだので仕方なく。

そう、仕方なくなんだ。


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