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□似た者同士[後編]
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まだ暑いけれど、もみじたちは赤く染まりだした。




続・似た者同士


お巡りさんが乗る自転車が2台、そしてあの古い外車が1台停まっている。
一軒家の玄関前で大あくびをしているあの人はよく知っている人だ。
無論、あの刑事。

「石原さん!」

矢部の部下。
金髪のオールバックで、怪しい広島弁を話す男。
はたしてそれが本当に広島弁なのかは私にはわからない。だからあえて聞かない事にしている。

「おぉ姉ちゃん!偶然じゃのぉ」
「偶然ですね」

あれからしばらく会っていなかった。

「どうしたんですか?事件?」

少し近づいて奥に見える家を覗き込むと距離が近かったためか、石原さんが一歩引いたのがわかった。

「お、おぉ、強盗じゃよ」
「そんな小さな事まで…」
「当然じゃ!わしは警察官じゃけえのお」
「まぁ…そうか」

やっぱりそういうところはしっかりしてる。
正義の味方、それが警察だ。

「今日は一人ですか?珍しい」
「兄ぃは別件じゃ」
「そうなんですか」
「……これは小さな事件じゃからのう。一人でも十分じゃよ」
「やっぱり偉くなったんですね、石原さんは」
「どーゆー意味じゃ」
「えへへへ」

ここは東京。
今日も暑いけれど、季節は秋。



──…‥

あれから数ヵ月後、矢部のちょっとした要望で石原さんは東京に戻ってきていたのだ。

広島旅行から帰ってきた日から約2ヶ月後、たまたまバイトの帰りに街を歩いていると石原に出会した。

『なんでいるんだ!』
『…いやぁ、の?兄ぃが…戻ってこいって…』
『え、なんで?』
『色々大変だそうじゃ』
『…連絡くれればよかったのにな……』
『え?なんじゃ?』
『いや、なんでもないです』

東京に帰る日に交わした言葉が『また今度何処かで』だった。
まさかこんなにすぐに会えるとは思っていなかった。

石原さんによると、[寂しがり屋]である矢部がとある事件の手伝いを口実に連絡してきたらしいのだ。
偶然にも容疑者は広島の出身だったらしい。東京で事件を起こしたならば広島など全く関係無いのだが、要するに石原さんよりも使えない部下たちに疲れた[寂しがり屋]な矢部が、ただ石原さんに戻って来てもらいたかっただけなのだ。

これは後から本人に聞いた話だ。
『石原は資料探しが得意やからな、伊藤公安課長が戻ってこさせたんや。決して、決して!俺の考えやないぞー。誰かまともなやつおらんのかー!ちゅーから俺がゆうてみただけや』

とまぁ、矢部は昔からこんな奴なのだ。
だけどこんな、色んな意味で素直にならない矢部を慕っている石原さんがおかしな人に見えてくる。

そんな所も面白い人だなぁと思うのだけど。

─…‥
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