trickbook

□不意に涙
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ある夜──…

一人の超能力者が自害した。



不意に涙


彼の名は大崎孝次郎。

大崎はそれは有名な奇術師だった。これまでの超能力者とは全てが違い、日本では彼が本物ではないかと言われるほどの実力があったらしい。
どんな不思議にも必ずトリックはあると言いたいのだが、しかし誰一人見抜いた人はいなかった。
この天才な私でさえも見抜けなかった。
大崎は小さい頃から両親がいなく、祖父母の家で暮らしていた。幼い頃は友達と外で遊ぶような子ではなく、大人しい子どもだったようだ。
寂しい生活をしていた大崎は17歳の時、祖父母の家を飛び出し、行き着いた場所で初めて小さなマジックショーを見た。
それに感動を覚え、この世界に足を踏み入れたというのだ。

のちに出世した大崎は山田の父親と面識があり、彼と挑戦者たちのトリックを解いていった。最高のマジシャン同士、固い友情で結ばれていた。
そんな大崎がある日俺の研究室を訪れ、山田奈緒子に会いたいと言ったのだ。


──…‥

いつものように食べ物と金で釣ると山田は当然ついてきた。

『会ったことはあるか?』
『覚えてないですけど…名前は聞いたことあります』

山田と顔を合わせたとき、大崎は驚いた声をあげた。

『奈緒子ちゃんか?!久しぶりだね。まぁ君は覚えていないだろうがね』

どこか怪しげで白髪混じりの髪型のどこにでもいるような男。

『君には……会っておきたかった』
『…………父の事故のこと…何か知ってるんですか?』

大崎を見た山田が少し怯えていたのを覚えている。あんな山田は初めてだった。

『最後の言葉を…君は覚えているかね』
『最後の…言葉?』
『……本当に霊能力者はいるんだ…………彼はそう言った』

何もわかってやれていない。今思えば何も知らないんだ。この最後の言葉を俺は知らないのだから。
彼女の心に秘めた気持ち全て。

『その犯人は誰だろう?』
『…………何を知っているんですか』
『この世には不思議な力を持った人はいくらでもいる。だけどそれは科学では証明できない、そうだろう教授?』
『えーと…』
『科学で証明できないからどんどん増えるんだ。でもいいかい?必ずトリックはある。例えば……脱出用の鍵を持っておく。でもその鍵がなくなってたり…』

山田が顔をあげた。

『あ、あれは確か山田のお母さんが…』
『あぁそうだよ。だけどね、鍵は関係なかったんだよ』

そう言った大崎は少し笑っていた。

『当時は鍵を無くしたため事故死した、と騒がれたみたいだがね』

唯一知っているのは山田の父親の事故の話のみ。
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