trickbook
□嵐の夜
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嵐の夜は色んなことが起きる。
ガタガタとうるさく揺れる扉に
ヒューヒューと唸る窓。
そして、明るく光る空の下で。
このアパートごと吹っ飛ばされてしまうんじゃないだろうか。
奈緒子がテーブルの前で膝を抱えていると、風に混ざりながら小さく玄関扉が叩かれる音を聞いた。
玄関を凝視して、そのまま動かずにいるとしばらくして音が止んだ。
目を反らしてからほんの僅かな間にカチャっと扉が開く。
泥棒だと思った奈緒子は咄嗟に立ち上がり、戦闘体制に入るとそこには久しぶりに会う上田次郎が立っていた。
「上田さん!?何勝手に開けてんですか!!」
「スペアキー作っといたんだ、こういう時のためにな」
「こういう時って、勝手に暗証番号解読したり鍵作ったり…今度こそ訴えるぞ!」
「俺らの仲じゃないか」
「はい?あ、ちょっと!」
上田はそそくさと靴を脱ぎ、腰を下ろした。
この人はいつも邪魔をする。
奈緒子は殴りたい衝動に駆られていると、別の光に気をとられてしまった。
その光の後にくる音に肩を竦めながら、奈緒子もゆっくり腰を下ろした。