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□似た者同士[前編]
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そんなことを思っていると、あまりにも暑いためどこか別の場所で話そうと、車に乗り込むと広く感じた。いつも狭い次郎号に乗ってるからだ。

「仕事中なのにいいんですか?」

エアコンの涼しい風に当たりながら運転する石原の横顔を見て聞いた。

「誰にもバレんよ」

にっこり笑っている。
この顔は矢部とサボり実行中の時の顔だ。とても楽しそう。

「連絡しちゃいますよ、警察に」
「ちょ、姉ちゃん!」
「…えへへ!嘘です」
「えへへって」
「……それより……この匂い、なんですか?」

どこからか漂ってくるいい匂い。

「匂い?………あぁ香水じゃろ、多分」
「香水?香水なんてつけてるんですか?」
「わしはたまにしかつけんよ。多分これじゃろ」

赤信号で止まり、手が自由になった石原は車のエアコンを指差した。

「エアコン?」
「ほらぁ久しぶりにつけるエアコンはカビ臭いじゃろぉ、わしはその匂い嫌いなんじゃよ。だからスプレーしたり香水使ったり。これお気に入りなんじゃ」
「エアコン使ったこと無いんでわかんないですけど、そうなんですか」
「えっ!使ったこと無いなんて!貧乏暮らしも大変じゃのう」
「嫌味ですか」

エアコンくらいは普通家にあると思っていた。

こんな暑い夏にクーラー無しで熱中症にならないんかのう?

「とにかく……いい香りですね。私、香水ってきついと嫌いなんですけどこの匂いは好きです」

──好き。

「おっ、おぉそうか!じゃああげようかの?」
「え!いいですよ、お気に入りなら尚更悪いし」
「気に入ってるからあげたいんじゃよ」
「…え」
「香水くらいつければ…姉ちゃんもモテるんじゃないかの?へへへっ」
「余計なお世話ですよ」

この香水なら上田先生もきっと素直になるに違いない。
………ってなんで人のために考えなきゃならん。あ、警察だからじゃ。
世のため人のため愛を注ぐのが警察じゃ。

「元々モテますから」
「ホントかの?」
「……当然」
「ふーん」
「でも…せっかくなんでもらっときます」

あなたが気に入ってるなら。

「半分くらいしかないけん…」
「いいですよ、そんな。ちょっとあれば十分です」

きっとあの先生のためじゃな。
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