trickbook

□似た者同士[前編]
3ページ/7ページ


綺麗な顔じゃのう、なんて。

「……変わってないですね、石原さんは」
「そ、そうかの?」
「相変わらずオールバックだし、相変わらず丈短いし、相変わらず…元気そうだし」
「………そう…かもしれんのう…それは姉ちゃんもじゃよ。相変わらず…なんちゅうか…」
「……」
「態度がでかい」
「えぇぇ!!……って、なんで?」
「それに…相変わらず顔は悪くないのぉ?」

けらけら笑った。
そんなこと言うつもりはなかった。綺麗、も言えないなんてただの臆病者だ。だけど女性が喜ぶ方法を知らないからこうなる。

「顔はってなんですか、顔はって。……まぁいいですけど……昇任しました?」
「いや、わしは準キャリアじゃけ、変わっとらんよ」
「………準キャリアって?矢部さんは?」
「いわゆる…エリートっちゅうやつじゃの!はははっ!兄ぃは元は巡査じゃよ。それから警部補にまで昇任じゃ!さすがじゃのぉ♪」
「えぇぇ!知らなかった!矢部はどうでもいいけど石原さん、頭良かったんだぁ〜」

必死で勉強した甲斐があったっちゅーことじゃのぉ。

噂された時期もある。超エリートに見える人物ではなく、石原のような─人は見かけで判断してはいけないが─真面目に見えぬ風貌の者が準キャリアというのだから、警視庁七不思議の中に入る程─良く言えば─有名だったのだ。

「………見えませんね」
「!人は見かけによらずなんとかてよくゆーじゃろ!」
「なんとかは無いですよ」
「なんでもえぇんじゃ」

奈緒子はこの時ハッと思った。石原には矢部が居た方がいいんじゃないかと。
笑顔が減っているような気がした。奈緒子がイメージしてきた石原は矢部を慕っていて、どんなことにも忠実に行動し、よく笑っている人だった。

この広島には恐らく─石原にとっては─頼れて信頼できる、矢部のような上司はいないだろう。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ