trickbook

□大切な話
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シーン………。

ドアの近くで息をあらげて怒る奈緒子の後ろには眉間に皺を寄せ、奈緒子を見つめる上田が立っている。
「なんだよもう………まぁ……お好み焼きも悪くないか」
「おい!」
後ろを振り替えると大男。奈緒子は咄嗟に一歩下がった。
イライラしているのがなんともわかりやすい。
「……まさか…石原さんがYOUのことを…」
「ど、どーでもいいじゃないですか」
「どーでもよくなんかないよ。大事な事じゃないか。YOUは俺の恋人なんだから」
「うるさい!って……え?」
意味がさっぱりわからない。
「こういうことは言っておくべきだろ。誤解をうまないためにな」
「ちょっと待て上田。恋人ってどういうことだ」
「そのままの意味だが」
「いつからだ。誰が恋人になるなんて言った!」
ぶっ飛ばそう。
そう思った奈緒子は振りかざしてみたが、上田の力に叶うはずなく。
奈緒子の小さな拳は上田の大きな手にすっぽり隠れてしまった。
「承諾してくれたんじゃないのか?君と何年も一緒にいるのに普通なら」
「いつ私が承諾なんかした。断ったじゃないですか。いつだったか忘れたけど……でも、あり得ない。なりません、恋人になんて」
上田の手を振りほどくとソファーにどさっと腰かけ、ぶつぶつ言いはじめた。
「何が名誉教授だ。こんな弱虫で事件のひとつも私なしじゃ解決出来ないくせになんで名誉教授になれるんだ」
「おい!」
「こんな奴が人気なわけない。お前なんかうわべだけだろ、いい人ぶりやがって。本まで出して調子乗っちゃって。どうせ売れてないのに変なとこプラス思考だし。BOOK・OFFに売るなんていらないからに決まってんじゃん」
「YOU」
「意地っ張りだし素直じゃないしバカだし。鬱陶しい」
「YOU!」
「だから嫌なんですよ」
「………」
奈緒子は小さくため息をつき、上田は何も言わずに奈緒子の真っ正面に座った。
「だから断ったんです。なんか……嫌なんですよ。上田さんのそーゆーとこ。嘘つきだし、信じられないってゆーか」
「………」
「全部嘘みたいで本当の上田さんが見えないんですよね。人気を維持するそのために嘘つくっていうのは違うと思いますけど」
はっきり言われたのは今日が初めてだった。
「そんなに人気が大事なんですか?そんなに名誉教授になったことが偉いんですか?作られた嘘なんかで」
「いや、俺は」
「ここまで嘘を固めたせいで、真実を語ったら人気が落ちてしまうのが怖いだけじゃん」
「いい加減にしろよ!もういいよ」
「そんなことないのに」
「………え?」
なにが弱虫だ。
俺の何が悪い。
そんなの俺の勝手じゃないか。
YOUに何がわかる。
そんなことを考えていたが言えなくなった。
「……なんなんだよいきなり」
「嘘なんか付かなくても……き、きっと…今と変わらなかったのに………きっと…嘘なんか付かなくても名誉教授にはなってたと思います…よ?」
「……」
「……」
話をしている間、山田は一切俺の目を見ず、俯いたままだった。
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